研究課題
これまで脳内ではミクログリアが免疫細胞として解析されてきたものの、獲得免疫を担うT細胞、B細胞などのリンパ球はようやくその重要性が認識されつつある。免疫系細胞が神経系細胞を巻き込んで引き起こす「脳内炎症反応」は短期的には神経細胞にとって悪影響があるものの、炎症収束後の脳機能修復とその維持に不可欠と考えられる。しかし、脳内リンパ球の分子細胞レベルでの意義の解明は極めて遅れている。本研究では脳梗塞モデル、パーキンソンモデル、アルツハイマーモデルを用いて細胞間相互作用を1細胞RNAシークエンス(scRNAseq)などによって経時的、空間的に理解する。本年度は(1)アルツハイマーモデルマウスは3ヶ月齢という早期からAβの脳内蓄積が認められる。同時にT細胞の脳内浸潤が認められる。ところがT細胞を欠損するマウスの背景ではこのプロセスが遅延し、T細胞がAβの沈着に積極的に関与する可能性が示唆された。抗体を使った除去実験から特にCD8T細胞が重要であることをであることを見出した。(2)scRNAseqによってTCR解析を行い、マウス脳梗塞およびアルツハイマーモデルにおいてオリゴクローナルに増幅しているCD8T細胞のTCRを単離した。(3)個体を用いた実験系は時間を要し、分子の同定や機能解析には不向きである。そこで脳内における脳Treg分化誘導因子を単離するためにすでにアストロサイト やミクログリアの初代培養系に様々な脳内因子とTregを加えて共培養を行う系を確立した。本法によって末梢Tregから脳Tregに特徴的なST2やHtr7の発現誘導が可能となっており、今後どのような因子が脳Tregの性質を付与するのかを明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
予定通り1細胞RNAシークエンスを行い、マウス脳梗塞およびアルツハイマーモデルにおいてオリゴクローナルに増幅しているCD8T細胞のTCRを単離した。またアルツハイマーモデルマウスにおいてCD8T細胞が病態に促進的に作用することを見出した。さらにアストロサイト やミクログリアの初代培養系に様々な脳内因子とTregを加えて共培養を行う系を確立した。これらの成果から研究は順調に推移していると考えられる。
(1)脳内で増幅しているCD8T細胞のTCRcDNAをT細胞ハイブリドーマに発現させて、脳スライスと培養し、反応するかどうか確認する。反応が見られたら細胞分化によって反応する細胞を同定し、さらにcDNA発現ライブラリーを作成し293細胞に発現させて抗原タンパク質の同定を行う。(2) アルツハイマーモデルにおけるCD8T細胞の意義を明らかにするために、T細胞欠損マウスと野生型マウスの神経細胞やグリア細胞のscRNAseqを行い、T細胞の標的となる細胞を明らかにし、さらにAβの蓄積を促進させる機構を解明する。(3)グリア細胞とTregの共培養系を用いて脳内Tregの誘導に重要な因子を同定する。すでに複数のサイトカインの影響を明らかにしているが個体でも機能しているかを遺伝子欠損マウスを用いて確認する。(4)試験管内で作成した脳内Treg様細胞が実際に脳梗塞やパーキンソンモデルで脳内に浸潤し修復効果をもたらすかを確認する。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 4件、 招待講演 7件) 備考 (2件)
J Immunol.
巻: 206 ページ: 1528-1539
10.4049/jimmunol.2001003.
FASEB J.
巻: 35 ページ: e21388
10.1096/fj.202001477RR.
Front Immunol.
巻: 12 ページ: e642173
10.3389/fimmu.2021.642173.
Sci Immunol.
巻: 6 ページ: eabb6444
10.1126/sciimmunol.abb6444.
Front. Immunol.
巻: 12 ページ: e763647
10.3389/fimmu.2021.763647
https://www.med.keio.ac.jp/features/2021/8/8-81824/index.html
https://www.med.keio.ac.jp/en/features/2022/4/35-123061/index.html