研究課題/領域番号 |
21H05056
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (90371533)
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研究分担者 |
中村 知裕 北海道大学, 低温科学研究所, 講師 (60400008)
三寺 史夫 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (20360943)
山下 洋平 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (50432224)
鈴木 光次 北海道大学, 地球環境科学研究院, 教授 (40283452)
小畑 元 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90334309)
近藤 能子 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 准教授 (40722492)
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研究期間 (年度) |
2021-07-05 – 2026-03-31
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キーワード | 鉄 / ケイ素 / 化学的プロパティ / 北太平洋 / 珪藻 |
研究実績の概要 |
2006年、2007年、2010年、2011年、2014年、2018年に北海道大学低温科学研究所とロシア極東海洋気象学研究所の共同研究として実施したロシア船を用いたオホーツク海とベーリング海の観測データを、1998年から2017年までに北太平洋で実施した観測航海のデータと統合し、各測点の水柱内の塩分、水温、密度、溶存酸素、Fe、Si、N、Pデータを含む栄養物質データセットを作成整備しHPで公開した。上記データセットを用いた解析を実施し、東経155度の北太平洋中層水(NPIW)から表層に向けた上向きのFeおよび主要栄養塩のフラックスと、HPLC植物色素データから得られる表層の生物種組成情報を比較した。生物種組成情報を取り出してフラックスとの関係を見ると、下層から表層への栄養物質フラックスと珪藻の現存量との間には良い相関がみられた。亜寒帯ジャイア域と黒潮・親潮移行域でNPIW循環から表層に供給されるFeやSiなどの栄養物質によって、珪藻の増殖が支えられていることが初めて示された。また、堆積物由来溶存鉄の長距離輸送メカニズムの解明を目指して、NPIW循環域における溶存Feの化学形態別分布を解析した。その結果、オホーツク海陸棚堆積物から運ばれてくるFeは、粒子状やコロイド状が主な形態であるのに対し、中層水循環により長距離輸送されるFeは腐植錯体Feであることを示唆した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題の目的は、「海洋コンベアベルト終焉部の新たな栄養物質循環像」を解明し、「なぜ北太平洋はSiやFeの豊富な海になり、珪藻が優占種になるのか?」を理解することで、この海域の「海の恵み」を生み出すシステムを把握することである。また、このシステムを表現する数値モデルを開発することで将来の気候変動の影響などを抽出することにつなげることである。この点において、R3年度は、1)データアーカイブ作成、2)北太平洋中層水の栄養物質供給と表層の珪藻類の増殖メカニズム、3)北太平洋中層水による鉄の輸送過程メカニズムの解明に関して大きな進展があった。
上記を鑑み、現時点で本研究から得られている研究成果は、北太平洋の「海の恵み」を生み出すシステムの理解に向けた知見を蓄積していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本課題の目的達成のために下記の項目を実施していく。 (1) 本研究で実施する新たな船舶観測のデータを、現時点のデータセットに取り込み拡張していく。また国際GEOTRACES計画でまとめられているグローバルデータセットへの移行を進める。(2)大陸棚から供給されるケイ素フラックスの見積もり(3) 南部オホーツク海の集中的な観測を実施し、オホーツク海北部陸棚から中層水によって南部に移送されてくるSiやFeの物質移送量の季節的変動を含めた定量把握を目指す。(4) 北太平洋スケールの海洋生態系モデル(BEC)を海洋モデル(ROMS)に組み込んだ数値モデル(BEC―ROMSモデル)を用いて、NPIW循環に対する深層水に高濃度で含まれるSiの寄与を検討する。(5) R7年度に白鳳丸ベーリング海航海を実施し、アリューシャン海峡部やベーリング海盆斜面域などの高Siの深層水が強い乱流混合で上がってくる可能性のあるエリアの集中観測を行い、得られたデータを取り込むことで、データ解析を深化させ、数値モデルを検証する。(6) 北太平洋や南部オホーツク海の観測を実施する航海で、生物地球化学パラメータと乱流混合過程の集中観測を実施する。特にオホーツク海クリル海盆域や、磯口ジェットと呼ばれる亜熱帯水が亜寒帯水に入り込んできているエリアで、生物地球化学パラメータと乱流混合過程の集中観測を実施する。
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