研究課題/領域番号 |
21J00011
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大里 健 京都大学, 基礎物理学研究所, 特別研究員(PD) (00914277)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 観測的宇宙論 |
研究実績の概要 |
標準宇宙モデルを超えた物理の探究という宇宙論における最重要課題に取り組むため、最新鋭の観測機器を駆使した撮像・分光観測が計画されている。日本の研究機関が主導している、すばる望遠鏡Hyper Suprime-Cam・Prime Focus Spectrographサーベイに加え、欧州宇宙機関によるEuclid衛星計画は、銀河パワースペクトルと重力レンズ効果の観測により、これまでにない深い宇宙における大規模構造の広域探査を目標としている。これら将来の観測計画においては宇宙論的統計量を数%以下の精度で測定することが可能となるため、新しい物理の兆候を見出だせる可能性がある。そこで、本研究では将来観測による高精細の広域観測データを最大限活用し、暗黒成分の正体に代表される標準宇宙モデルを超 えた物理を理論・観測の両面から探求することが目的である。 実際の観測において、銀河の三次元距離は分光観測から測定される。この距離測定においては、宇宙膨張による効果に加え銀河の固有運動による寄与がある。後者については視線方向という特別な方向に対する依存性を付与するため、測定される統計量も方向依存性を持ち、この現象を赤方偏移歪みと呼ぶ。本年度はこの赤方偏移歪みの効果を解析的な理論モデルに適切に取り入れる研究を行った。また、応答関数による展開法を用いることで、従来の手法と比較して50倍程度の高速化を実現した。次世代の観測においては、多数の宇宙モデルについて、高速に正確な理論計算を行う必要があり、我々が開発した手法は観測データの解析においても有用な手法である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は応答関数法を用いた銀河パワースペクトルの高速化法を開発し、その応用としてシミュレーションの結果と比較し、解析方法の妥当性を検証する研究に着手した。さらに、これらの研究に加え、模擬輝線銀河分布をシミュレーションから高速に計算する手法を開発し、原著論文として発表した。次年度から実際の観測データの応用に取り組む素地が完成しつつあり、本研究課題は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はこれまで開発した赤方偏移歪みを考慮した銀河パワースペクトルの計算手法を実際にシミュレーションと比較し、手法の妥当性を検証する。我々の先行研究において、赤方偏移歪みを考慮していない場合については同様の検証を行ったが、今年度に行う研究については赤方偏移歪みを考慮し、かつ銀河と物質の非線形な関係を正しく考慮した上で、検証を行う。また、実際の観測データに適用することで、次世代観測であるPFSやEuclid観測が始まるまでに、我々の手法の有用性を確証づける。 さらに、新たな研究テーマとして、銀河分布フィールドレベル解析にも取り組む。フィールドレベル解析とは、従来は統計量という観測された銀河密度場の情報を要約する物理量を用いて、統計解析を行なってきたが、統計量で表現できない情報を損失してしまう。フィールドレベル解析は銀河密度場そのものを統計解析に取り入れるため、場の持つ全ての情報を余すことなく引き出すことが可能となる。我々はGridSPTという密度場の重力進化理論モデルを用いて、この手法を実装することを目指している。さらに、Graphic Processing Unit (GPU)を用いて、更なる計算の高速化に取り組むことで、より汎用性の高い理論モデルを開発する。
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