研究課題/領域番号 |
21J00034
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
中野 裕義 慶應義塾大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 非平衡ゆらぎ / 非平衡相転移 / 分子動力学シミュレーション / 揺らぐ流体力学 |
研究実績の概要 |
1. 大規模分子動力学シミュレーションを用いた非平衡流体の解析 液体状態にあるレナード・ジョーンズ粒子系の大規模分子動力学シミュレーションを行った。一様せん断流を印加し、非平衡揺らぎの振る舞いを数値的に解析することで、これまで現象論でしか議論されてこなかった非平衡流体の長距離相関を観測することに成功した。十分に大きいシステムサイズにおいて、観測された長距離相関は揺らぐ流体力学とよばれる連続体理論の解析結果と定量的に一致した。一方で、システムサイズが小さいときには揺らぐ流体力学の結果と分子動力学シミュレーションの観測結果は一致せず、強い有限サイズ効果が見出された。この結果は、一様せん断流下にある流体を原子・分子からシミュレーションするためには、十分に大きいシステムサイズが要求されることを示唆する。
2. 固体表面上で局所的に起こる相転移現象の理論解析 固体表面上で起こる相転移現象を調べるために、固体表面を模した特別な平面を持つO(N)モデルの理論解析を行なった。特別な平面内での相互作用の強さを強めることで、平面内でのオーダーを強めることができる。さらに、特別な平面に平行な一様せん断流を加えることで、平面内のでの非平衡ゆらぎが抑制され、平衡状態では起こらない相転移が起こることがわかった。本研究の解析はNが大きい極限で厳密になり、一様せん断流が平面内のオーダーをどのように強めるかを厳密に解析することができる。本研究によって、固体表面上で起こる臨界現象に非平衡性が及ぼす影響の理解が進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の最終目標は固体表面に付着したナノバブルの平衡・非平衡状態における性質を解明することである。現在のところ、直接ナノバブルを解析することはできていないが、これを行うための下準備となる研究を行い、非自明な成果を得ることができた。一様せん断流下でのレナード・ジョーンズ流体の大規模分子動力学シミュレーションで得られた成果や大規模シミュレーションのノウハウはナノバブルの分子動力学シミュレーションを行う上で重要な知見を与える。また、固体表面を模した特別な平面を持つO(N)モデルの理論解析の結果は固体表面に付着したナノバブルが一様せん断流によって新奇な振る舞いを示す可能性を示唆する。以上から、現在までの達成度を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得た知見を利用し、ナノバブルの性質を微視的理論や現象論を用いて調査していく。大規模分子動力学シミュレーションのノウハウを生かし、実際に表面に付着したナノバブルを分子動力学シミュレーションによって作り出し、ミクロな物理的測定を行う。さらに、一様せん断流が印加された流体中での気液相分離を揺らぐ流体力学のような現象論を用いて調査し、一様せん断流下におけるナノバブルのマクロな振る舞いを調査する。
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