サンゴ礁は、世界中の海洋生態系において最も多様で豊かな生物群集の一つであり、その栄養源となるのはサンゴの共生藻類(褐虫藻)が行う光合成プロセスである。しかし、近年の気候変動による海水温上昇や酸性化によって、サンゴ礁は大きな危機にさらされている。このような状況下で、サンゴの共生藻類が効率的な光合成を行うためには、CO2固定経路の調節機構が重要であることが考えられる。 このCO2固定経路の調節機構の解明を目指し、まず単純な光合成モデル生物としてシアノバクテリアSynechocystis sp 6803における、暗所から明所に移した後の代謝変化を秒単位で定量した。その結果、暗所で解糖系の代謝物である3-ホスホグリセリン酸、2-ホスホグリセリン酸、およびホスホエノールピルビン酸が高蓄積していることが明らかとなった。これらの代謝物は光照射後すぐにCO2固定代謝経路であるカルビンサイクルに流れ込み、光合成活性化中の動的な代謝フラックス変化を支えることが示された。この成果は、高速サンプリング手法と代謝物濃度の絶対定量法という独自アプローチを組み合わせることで達成された。 この研究は、環境適応において代謝物の適切な維持が重要であることを示唆しており、今後の研究においては、このような視点からサンゴや褐虫藻における代謝調節機構の解明が求められる。また、本研究の手法やアプローチは、褐虫藻およびサンゴの光合成活性化中の代謝フラックス変化を解明するために重要な手法となることが期待される。
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