今年度は,ロシアの知事の退任後のキャリアの変化に関する研究,市長の逮捕パターンに関する研究,ウクライナの地方議員の選出パターンに関する計量研究を進めた. 第一の研究に関しては,ロシアにおける重要なアクターである知事の退任後のキャリアの時系列的な変化を,自身で集めた知事のデータセットを用いて示した.1990年代には知事は中央政府から自律的であり,退任後も地方内で影響を保つ道を選択していたが,集権化の影響で連邦政府の支配下に置かれるようになると,退任後に連邦政府にポストを得る傾向に変わった.この変化は,集権化が地方エリートへの支配を強めるとともに,彼らを国家の官僚制の中に取り込むことで慰撫していることを示している.この成果は英語査読雑誌に投稿中である. 第二の研究は,シカゴ大学の研究者と共同で行なった.近年ロシアにおいて大都市の市長が任期途中で逮捕されるケースが増えてきているが,その裏に政治的な思惑があることが指摘されている.大都市市長のデータ,知事のデータ,および地方検察のデータを用いて計量分析を行なった結果,知事と地方検察が,当該地方の外部でキャリアを積んでいる場合,地方内での主要なライバルとなる市長を政治的に弾劾することで追い落とすことを目論み,市長の逮捕が増えることを実証した.この論文をいくつかの学会での発表し,その際に受けたコメントをもとに修正中である. 後者に関しては,2014年のユーロマイダン革命前後の地方議会選挙における地方政党の躍進に関して分析を行った.2020年の地方選挙では,特に市長を中心とした政党が躍進したが,この理由について支配政党の反現職のスタンス,分権化政策による市長の影響力の拡大,およびウクライナ特有の土着の政治的関係の強さによって説明した.この成果は,Eurasian Geography and Economics紙に採択された.
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