植物の精油成分として抗菌作用を有するファルネソールは、酵母状真菌Candida albicansや枯草菌Bacillus subtilisを始めとした微生物においても生産される。本研究では、糸状菌Aspergillus fumigatusにおけるファルネソールの作用機構を解明すると共に、A. fumigatusとファルネソール生産菌や微生物叢との微生物間相互作用におけるファルネソールの生理的な役割を明らかにすることを目的とした。Aspergillus oryzaeの転写因子破壊株ライブラリーを用いたスクリーニングにより、転写因子AtrRがファルネソール応答に機能することが分かった。A. fumigatusのAtrRの遺伝子破壊株ではファルネソール感受性が上昇したことから、A. fumigatusにおいてもAtrRがファルネソール応答に機能することが示された。AtrRはアゾール系薬剤の耐性に関与することが知られており、細胞膜を構成するエルゴステロールの生合成系を制御する。ファルネソールを添加後24時間インキュベートしたA. fumigatus菌糸を用いたRNA-seq解析により、エルゴステロールの生合成に関わる複数の遺伝子の発現上昇が見られた。そこで、ファルネソール非処理または処理したA. fumigatus菌糸のエルゴステロール量を比較したが、両者の間で差はなく、ファルネソールへの応答とエルゴステロール生合成系に相関は見られなかった。事情により令和3年度で特別研究員を辞退することとなったため、研究計画の中途で研究を終了することとなった。
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