近年の実験岩石学的研究から、沈み込み帯火山の直下ではスラブ流体が超臨界流体として普遍的に放出され、それらがウェッジマントルを上昇中に水流体とメルトに分離することによって複数のマグマを同時に生成する可能性が提案された。本研究は、同プロセスによってマグマが生成する条件の抽出やその普遍性を解明することを目的に実施された。本年度は千島弧の利尻火山、東北日本弧の渡島大島火山を対象とした天然試料の解析を実施した他、超臨界流体が上昇中に水とメルトに分離する際の元素分配を明らかにする目的で高温高圧実験を実施した。 利尻火山では、Na/Kの異なる2種類の玄武岩マグマの解析を行い、low-Na/Kマグマは超臨界流体、high-Na/Kマグマは超臨界流体から分離した水流体がフラックスとなって生成しており、超臨界流体の分離が初生マグマの組成を決定づけていることを指摘した。本結果はJournal of Petrologyに投稿し、受理・印刷された。 渡島大島火山では、山体全体から網羅的にサンプリングされた136試料について薄片の検鏡、全岩化学組成分析を行った他、70試料については希土類元素組成と放射性同位体比の分析を行った。その結果、渡島大島火山では玄武岩質マグマ、安山岩質マグマ、高Srの安山岩質マグマ、デイサイト質マグマなど多様な組成のマグマが活動していたことが明らかとなった。今後、EPMAによる鉱物化学組成の分析を行うことで、マグマプロセスを制約する。 高温高圧実験に関しては、水流体とメルト間の分配係数を決定するために、産業技術総合研究所の内熱式ガス圧装置を利用した高温高圧実験を実施し、実験生成物を同研究所設置のICP-MSおよび炎光光度計で分析した。大変興味深い結果が得られ、現在、国際誌へ投稿するための原稿を執筆している。
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