本研究の目的は、植民地期の朝鮮人作家の「二言語創作」に注目することで、朝鮮人作家の創作が植民地/帝国の知的ネットワークの影響を受けながら形成されたものとして捉え直すものである。上記の目的のもと、2021年度は植民地朝鮮での中国文学・台湾文学の翻訳状況について調査・分析を行った。 植民地朝鮮の作家は複数の言語によって創作をする中で、植民地/帝国におけるさまざまな知的ネットワーク(作家の交流、朝鮮語/日本語の読書経験)の影響を受けていた。さらに、日本語は日本文学・日本人作家との出会いをもたらすだけではなく、中国文学・台湾文学や中国人作家・台湾人作家との出会いを同時にもたらすことになった。このような問題関心から、2021年度は国会図書館や一橋大学、東京外国語大学等で植民地朝鮮での中国文学・台湾文学の翻訳状況についての文献資料の調査を行い、調査結果をもとに学会発表を行った(「金史良の日本語作品を生成した台湾文学者とのネットワークと中国文学への関心―「郷愁」(1941)と「Q伯爵」(1942)を中心に」、東アジアと同時代日本語文学フォーラム、2021年10月17日、於オンライン;「金史良文学を生成した台湾文学者とのネットワークと中国文学への関心―「エナメル靴の捕虜」(1939)、「郷愁」(1941)、「Q伯爵」(1942)を中心に」、国際学術大会「境界/接続地帯と場所の誕生」、2021年10月16日、於オンライン)。 また、本研究課題を進める中で、朝鮮人作家の日本語作品において男性主体が主に描かれるのに対し、朝鮮人女性の問題が後景化してしまう問題に関心を持つようになった。同テーマについて学会発表(「金史良の日本語作品に描かれた朝鮮人女性」国際高麗学会日本支部第25回学術大会公開シンポジウム『女が書く、女を書くー文学の中の在日朝鮮人女性』、2021年5月30日、於オンライン)を行った。
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