本研究の目的は、植民地期の朝鮮人作家の「二言語創作」に注目することで、朝鮮人作家の創作が植民地/帝国の知的ネットワークの影響を受けながら形成されたものとして捉え直すものである。上記の目的のもと、2022年度は植民地朝鮮での中国文学・台湾文学の翻訳状況について調査・分析を行った。併せて、植民地期の朝鮮人作家の日本語作品における女性表象についての調査・分析も行った。 植民地朝鮮の作家は複数の言語によって創作をする中で、植民地/帝国におけるさまざまな知的ネットワーク(作家の交流、朝鮮語/日本語の読書経験)の影響を受けていた。さらに、日本語は日本文学・日本人作家との出会いをもたらすだけではなく、中国文学・台湾文学や中国人作家・台湾人作家との出会いを同時にもたらすことになった。このような問題関心から、2022年度は前年度に引き続き植民地朝鮮での中国文学・台湾文学の翻訳状況についての文献資料の調査を行い、調査結果をもとに学会発表を行った(「金史良の日本留学経験ー朝鮮人移住労働者、台湾文学者との交流を中心に」仇甫学会2022年上半期第34回定期学術大会「帝国の中の植民地、植民地の中の帝国」、2022年4月23日)。 また、本研究課題を進める中で、朝鮮人作家の日本語作品において男性主体が主に描かれるのに対し、朝鮮人女性の問題が後景化してしまう問題に関心を持つようになった。同テーマについても前年度に引き続き調査・分析を行い、論文(「金史良の日本語作品に描かれた朝鮮人女性」『コリアン・スタディーズ』第10号、国際高麗学会日本支部、2022年6月)を発表することができた。 本研究課題については、辞退により1年半で終了となった。今後も植民地期の朝鮮人作家の二言語創作や女性表象に関連した研究を進め、国内外の朝鮮文学研究に新たな視座を提供できるように研究成果を発表していきたい。
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