研究実績の概要 |
近年、次世代シークエンス技術の進展によって、野生動物から様々なウイルス遺伝子が見つかっている。網羅的な解析によって、ウイルス遺伝子が見つかっていても、そのウイルスがヒトに感染するかはわからない。実際に、世界中に生息するコウモリから多様なコロナウイルスが見つかっている(Wong et al. Viruses.2019)が、どのコウモリコロナウイルスがヒトへの感染するかは十分に解明されていない。そこで本研究では、新規のコウモリコロナウイルスを探索し、コウモリコロナウイウルスが種の壁を越えるリスクを評価する。 昨年度に引き続きVirome解析を行い、ブラジルのコウモリ由来のサンプルから、新たにβコロナウイルス様配列を同定した。さらに、コウモリ由来のコロナウイルスの新興感染症リスクを評価するための実験系の検討を行った。コウモリ由来のウイルスが起源と考えられているSARS-CoV-2の受容体は、ヒトの上気道、下気道両方で発現しているが、特に鼻腔粘膜上皮で多く発現している(Sungnak et al, Nat Med. 2020)。そのため、ウイルスはまず上気道で増殖したのち、肺を含む下気道へと感染が広がると考えられる。ヒトでの感染を反映する感染動物モデルとして、ハムスターを用いた実験系が確立されているが、現在の方法では、30-100μlもの大量のウイルス希釈液を経鼻接種しているため、接種時に下気道までウイルス液が到達してしまう。そこで、ヒトでの自然感染を再現する動物モデルを確立するために、少量のウイルス希釈液を、ハムスターの鼻に限定して接種する感染系について検討した。その結果、少量のウイルス希釈液を鼻に限定して接種することで、ウイルスが鼻で増殖したのちに肺で増殖することが明らかとなった。今後、この系を評価指標の一つとして、コウモリウイルスの新興感染症リスク評価を行う。
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