本研究の目的は、温暖化と農薬施用の水生生物群集に対する複合影響、すなわち、「温暖化は群集に対する農薬の影響の強弱を変化させるのか」を検証することである。そのために、(1)水田メソコズムを用いた操作実験、(2)個体群レベルの温暖化と農薬施用の複合影響、(3)群集レベルの温暖化と農薬施用の複合影響、(4)Empirical Dynamic Modelingによる温暖化と 農薬施用の影響のシミュレーション予測の4項目に取り組む。 令和4年度は、前年度に行った実験(水田模擬生態系を用いて、温暖化と殺虫剤フィプロニルが水生生物群集および生態系に与える複合的な影響を検証したもの)で採取したサンプル処理とデータ解析により、主に項目(2)~(3)を進めた。まず、温暖化と殺虫剤が群集組成に与える影響を調べるため、PRC解析を行った。その結果、特に動物プランクトンに関して、温暖化処理によって組成が顕著に変化したことが示された。一方、フィプロニルが動物プランクトン群集組成に与える影響は、非加温/加温によって方向が異なった。個々の種の個体数を比較すると、トンボ亜目のヤゴという上位捕食者がフィプロニルによってほぼ消え去るという先行研究と一致する結果がみられた。さらに、ワムシ類では加温で特に増加する種が複数確認された。フィプロニル処理でむしろ増加した種、すなわち捕食や競争から解放された可能性のある種も多かった。加えて、加温によってフィプロニル処理の影響の大きさや正負が左右される種が散見された。動物プランクトンでは、加温によってより高温に適した種が優占するような組成の変化が起き、このことがフィプロニルの影響(つまりトンボの減少)の影響を変化させたと考えられた。したがって、少なくとも動物プランクトン群集組成に関して、「温暖化が、農薬が群集に与える影響を変える」という非相加的影響があるということが示された。
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