研究課題
2021年度には、小天体探査に係る以下3点の研究を行った。(1)小天体地形:小天体に着陸するためには、安全な着陸点を選定するための地形解析が不可欠である。本研究では、はやぶさ2が2019年に実施した着陸運用のための地形解析を体系化し、ジャーナル論文として投稿した。また、はやぶさ2が取得したフライトデータを解析し、探査機が設計通りに選定領域に着陸したことを明らかにした。(2)小天体近傍の軌道運動:はやぶさ2ミッションでは、探査機から分離された小型カメラにより、小惑星リュウグウでの衝突実験の観測がなされた。衝突現象の解析を行うために、本研究では分離カメラの軌道運動を精密に推定して、撮像条件を明らかにした。軌道推定では、リュウグウの重力場などによる外乱を考慮して、分離カメラ自身の画像のみを用いて、分離カメラの軌道を復元する手法を確立した。(3)小天体での衝突現象:研究成果(2)に基づき、分離カメラの画像を解析することで、リュウグウでの衝突実験の際に放出されたイジェクタの運動を解析した。特に、2次元情報である画像と、イジェクタが支配される運動方程式とを組み合わせることで、3次元的なイジェクタの運動を推定する手法を確立した。推定されたイジェクタの力学的な振る舞いと、理論モデルから予想される分布とが整合することを数値シミュレーションにより明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
小惑星リュウグウでの衝突実験の画像を用いて、高速衝突時のイジェクタの振る舞いを予定通り解析した。この際、取得画像の撮像条件を求めるために、リュウグウ近傍での分離カメラの軌道運動を精密推定する研究を実施した。この軌道推定は、当初予定していなかった研究であるが、本課題の目的の1つである「小天体近傍での軌道運動の解明」に別アプローチで迫る新たな研究展開である。一方で、この発展的な研究項目の追加により、2021年度に予定していた小天体近傍の軌道設計の研究を一部延期した。以上より、総合的にはおおむね順調に研究が進展している。
今後の研究では、主に以下2点の研究を行う。(1)MMXミッションを想定した研究:フォボス形状モデルに基づく地形・軌道解析。(2)はやぶさ2データを用いた研究:分離カメラ画像に基づく小惑星イジェクタの衝突ダイナミクス解析。(1)については、2021年度に研究を進めたリュウグウ形状モデルを用いた地形解析を応用して、火星衛星フォボスに関する研究を進展させる。初めに、MMXの仕様を想定した模擬画像を用いて、疑似的なフォボス形状モデルの作成を行う。次に、作成された形状モデルを用いて、表面傾斜や重力分布を計算することで、高精度着陸に適した着陸地点を模擬的に選定する。また、フォボスの重力モデルを用いて周回軌道を計算することで、MMXでの理学観測や重力計測の成立性を明らかにする。(2)については、2021年度に引き続き、はやぶさ2の分離カメラの画像を用いて、リュウグウでの衝突実験時に放出されたイジェクタの運動解析を進める。具体的には、イジェクタ群のなす面(イジェクタカーテン)の形状推定と、比較的大きな独立した放出ボルダーの軌道推定を行う。また、観測に基づいて推定されたイジェクタの振る舞いと、理論モデルから予測されるイジェクタの振る舞いとを比較することで、リュウグウの表面物性に制約を与えることを目指す。最終的には、これらの研究成果から、実装可能となった軌道・地形・衝突に係る技術要素(探査方式)を抽出する。それらを自在に組み合わせることで、小天体着陸探査の将来構想を提案し、汎用化した高精度着陸探査技術の有用性を示す計画である。
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すべて 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件)