2022年度は、シロアリの様々なカースト分化へのインスリン経路の関与を明らかにすることを目的に、2021年度行った補充生殖虫や有翅虫分化に加え、兵隊分化に関してもインスリン様成長因子と受容体の遺伝子発現動態の解析および機能解析を行なった。脳を対象としたトランスクリプトーム解析やリアルタイム定量PCR法により、インスリン様成長因子を含む神経内分泌因子の発現動態を調査した。その結果、繁殖カーストの一つである有翅虫分化時には、インスリン様成長因子ilp4の発現変動は見られないなど、補充生殖虫分化過程での発現変動とは異なる挙動を示した。さらに兵隊分化時においても同様の傾向は見られず、他のインスリン様成長因子についても有意な発現変動は見られなかった。またインスリンの標的器官について、各カースト分化時の体の様々な組織において受容体の発現解析を行った。その結果、InR1とInR3がカースト分化時に発達する部位において発現上昇する傾向が明らかとなった。本結果により、インスリン経路以外の分子機構により生殖虫以外のカースト分化が制御されうることが示唆された。今後インスリンの合成ペプチドの投与実験や、リガントと受容体の相互作用について詳しく調査する予定である。
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