研究課題/領域番号 |
21J01391
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上ノ町 水紀 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ガンマ線イメージング / 二光子同時計測法 / カスケード核種 / 核医学 / 多核種同時イメージング |
研究実績の概要 |
本研究課題は、多光子同時計測法によるバックグラウンド低減および、高感度位置特定手法を検証するとともに、新しい生体用多光子放出核種の探索・製造も行うことで核医学における多核種同時イメージング技術の確立を目指す。本年度は、イメージングシステムの構築・評価、多光子放出核種であるMg-28の製造および二光子同時計測法によるイメージング検証を実施した。 1)100 keV~200 keVの低エネルギーガンマ線コンプトンイメージングとTOF(Time-of-flight)型PET(Positron emission tomography)の同時搭載を目的としたSi/GFAGコンプトンカメラを開発し、Co-57(122 keV)の可視化に成功した。また、高速多チャンネル信号処理回路を用いた計測システムを構築・基礎評価を行い、CeBr3検出器を用いてシステム全体で283 psの時間分解能を達成した。 2)理化学研究所のAVFサイクロトロンを用いて新しい多光子放出核種としてMg-28の製造を行い、400.6 keVと941.7 keVのコンプトンイベントの同時計測手法により従来手法より低バックグラウンドな高感度位置推定コンプトンイメージングに成功した。 3)多核種同時撮像における核種間のクロストークによるバックグラウンド除去手法として光電吸収イベントとコンプトンイベントの同時計測の有用性を検討した。二光子放出核種であるIn-111とLu-177の同時コンプトンイメージングに適用させ、他核種の光子由来によるクロストークを低減でき、核種を主体的に選択できることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) SOI(Silicon on insulator)技術を用いたピクセルサイズ36 umのSi検出器とGFAGシンチレータ検出器を組み合わせた同期システムを構築した。それにより、Co-57から放出される122 keVの低エネルギーガンマ線が可視化できることを確認した。また、CeBr3検出器、高速多チャンネル時間幅信号処理回路および 高速DAQで構成された高時間分解能の放射線計測システムを構築し、TOF-PETとして十分な性能の283 psの時間分解能を達成した。 2)新しい生体用多光子放出核種としてMg-28に着目した。Mg-28は半減期21時間、400.6 keVと941.7 keVのガンマ線を連続放出する放射性核種であり、各ガンマ線由来のコンプトンイベントの同時計測によるダブルコンプトンイメージングが適用可能である。理化学研究所のAVFサイクロトロンを用いてMg-28を製造し、イオン交換カラムにより分離精製を行なった。リング型GAGGコンプトンカメラを用いてMg-28の測定を実施し、二光子同時計測による高感度位置推定コンプトンイメージングに成功した。 3)リング型GAGGコンプトンカメラで取得した二光子放出核種であるIn-111とLu-177の同時コンプトンイメージング結果に対して、連続光子の光電吸収イベントとコンプトンイベントの同時計数を適用させた。その結果、他核種から放出されるガンマ線由来のバックグラウンドによるアーチファクトが低減され、信号対バックグラウンド比および空間分解能が向上することが示された。光電吸収イベントとの同時計数により目的の二光子放出核種を主体的に選択できることを実証した。 以上の成果に対して、一部は国内・国際会議で発表を行い、学術論文として出版した。
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今後の研究の推進方策 |
ハードウェアとしてはSi/GFAG計測システムの基盤の構築が完了した。今後はシステムの基礎評価を進めるとともに、コンプトンイメージングとPETイメージングを同時に施行するCompton-PET hybrid cameraとしての多核種イメージングにおける有用性を検証する。また、更に、SOIピクセル検出器による反跳電子飛跡計測性能の評価を進めていく。コンプトン散乱が起きる際に反跳する電子飛跡を計測することで、従来のコンプトンイメージング手法よりも高精度に位置推定が可能となる。モンテカルロシミュレーションと標準線源を用いた実測定を通し、固体検出器を用いた反跳電子飛跡計測型コンプトンイメージングの手法の検証を行う。一方、Mg-28を含めた新規生体用多光子放出核種の探索・製造も引き続き行っていく。検出効率および再構成画像の観点から二光子同時計測法の最適な応用方法を検討し、生体イメージングへの可能性も探る。
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