研究実績の概要 |
ダイヤモンド中の欠陥である窒素-空孔中心(以下、NVセンター)は、その優れたスピン操作性や室温における長いコヒーレンス時間を活かし、高感度量子センサや高性能量子プロセッサへの応用が期待されている。本研究では、高品質なh-BN(六方晶窒化ホウ素)/ダイヤモンドヘテロ界面を利用した電子デバイス構造により単一NVセンターのスピンを個々に制御する手法を確立し、NVセンター量子ビットの多ビット化や長寿命量子メモリの実現への道を切り開くことを目的とした。当該年度は、高品質なh-BN/ダイヤモンドヘテロ界面を利用したデバイス構造の作製(①)に取り組んだ。その過程で、極低不純物濃度のダイヤモンド中の浅いNVセンターに対する微量ホウ素の影響について新たな知見(②)を得た。 ①:水素終端を形成後、大気暴露を介さずにh-BNを転写した構造下の浅いNV中心の電荷状態を評価した。h-BN被覆内外における負に帯電したNV-状態の確率は、h-BN被覆内のほうが高い傾向が見られた。これは、大気暴露により生じる表面吸着物が上記h-BN転写プロセスでは低減されたからであると考えられ、浅いNV中心の電荷安定化にh-BN被覆が有効であることを示している。また、水素終端下の単一NV中心として世界初のスピン操作(ODMR, Rabi, スピンエコー)を実証した。 ②:一般にホウ素は結晶中でアクセプタとして働き、スピン操作が不能な正に帯電したNV+状態の生成を促進する。しかし、ホウ素ドープ結晶(ホウ素濃度が窒素濃度以上)において、ホウ素が低濃度(<10^15cm-3)であれば単一NV中心が負に帯電できること、スピン操作が可能であることを発見した。この負の帯電状態はレーザー励起による二光子過程によるものであること、その電荷安定性はNVセンターから最近接のドーパント種類(主に窒素とホウ素)およびその距離に依存することを示した。
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