本申請では、重合度の整ったトリブロックポリペプチドの一段階合成手法の確立を目的とする。当該年度は、アミノ酸エステルをモノマーに用いた水系の化学酵素重合において、ポリペプチドの分子量制御因子を解明することを目指し、水溶性アミノ酸エステルの一種であるセリンエチルエステルをモノマーに用いた化学酵素重合を調査した。重合の触媒には加水分解酵素の一種であるパパインを選択し、様々なpHで重合を実施したところ、塩基性条件においてのみ、白濁沈殿の形成を確認した。得られた沈殿物をマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)により評価すると、分子量500-2000 Daの範囲にポリセリンに帰属可能な周期ピークを確認し、重合中に生じた沈殿物が重合度5-22のポリセリンであることが明らかとなった。また、沈殿物として得られたポリセリンの二次構造を評価すると、側鎖保護されていないポリセリンは、固体状態において、βシート構造を形成することが明らかとなった。ポリセリンは、その高いβシート形成能のため、化学酵素重合中にβシート構造を形成し、自己集合することで水中で沈殿したと考えられる。 本結果より、化学酵素重合中に形成するポリペプチドの沈殿有無は、ポリペプチドの親疎水性のみでなく、水中で形成する二次構造を考慮することで制御出来る可能性があることが示された。今後、沈殿速度や沈殿条件を精査することで、分子量分布のより精緻な制御が可能となると考えられる。
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