本研究では完全非線形積分方程式の正則性理論の研究を実施した。特に、昨年度に引き続き弱いスケール条件という積分核についての特異性の仮定のもと基礎理論の構築を行った。とりわけ興味深いと思われるのはヘルダー評価が成り立ってもハルナック不等式は成り立つとは限らない点であり。ハルナック不等式の反例は様々な先行研究で既に構成されていたが、いずれも積分核に異方性があるものであった。一方本研究では、積分核が等方的であり、変数に依存する場合にHarnack不等式の反例を構成している。この例は変数階分数冪ラプラシアンと呼ばれる作用素を使って構成している。今まで正則性理論や熱核評価など盛んに研究されてきた代表的な作用素であり、ハルナック不等式の反例を構成した意義は大きいと考えている。 本年度はさらに不連続係数や非有界項を持つ完全非線形積分方程式の正則性を解析するための新しい手法の開発を試みた。足掛かりとして先ず完全非線形2階偏微分方程式における十分に小さい積分指数に対する2階導関数のLp評価の導出を行った。先行研究のリンやカファレリによる手法では、関数がプッチ方程式の劣解かつ優解である必要があったが、本研究では関数が劣解であるという仮定のみを使ってLp評価を導いた。この結果の応用として凸な完全非線形方程式の4階導関数のLp評価を導いた。今後の展望として完全非線形積分方程式への拡張やより一般的な可積分指数へ評価の一般化を試みたい。
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