研究実績の概要 |
令和3年度前半において,Heisenbergが提唱した不確定性の一般化とみなせる概念である両立不可能性に関する研究を行った。具体的には,量子論における両立不可能性の新たな定量化を提案しその性質を調べた。特にqubit系におけるX測定とZ測定の組が示す両立不可能性が,この定量化の下で特徴的なふるまいを示すことの証明に成功した。本結果は量子暗号などの量子情報処理への応用が期待される。また今回の定量化は量子論において操作的に自然に表れる凸性に基づいて導入された量であり,一般確率論にも拡張可能である。一般確率論への拡張を考えることで,量子論の示す両立不可能性について新たな特徴づけが得られる可能性がある。本結果は指導教員である京都大の宮寺隆之氏およびTurku大のTeiko Heinosaari氏との共同研究で得られたものであり,論文誌(Physical Review A, 104, 032228 (2021))に掲載されている他,国際会議(AQIS2021)にて発表を行っている。 令和3年度後半では,これまでに行ってきた研究を基に,凸性および不確定性をテーマにした博士論文の執筆を行った。この博士論文では,前述の両立不可能性に関する研究および一般確率論における不確定性関係・混合の熱力学エントロピーといったこれまでに発表した結果についての解説だけでなく,操作的に自然な公理から一般確率論の厳密な数学的定式化を導出する過程を詳細に記述した。現在本論文のプレプリントが公開されている(arXiv:2202.13834 [quant-ph])。
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