非常に宗教的かつ多様な宗教的属性のあるインドのマイクロデータを利用して、経済行動における宗教の重要性を明らかにすることを目的として研究を行った。経済発展に伴い、インドにおける宗教の在り方は変化しているように見えるが、依然として宗教が関係する格差は存在している。宗教性と経済の関係は一方的なものではないと思われるため、様々な側面から検証していく必要がある。 2021年度は博士論文「インドにおける宗教と経済行動:マイクロデータを利用した定量的分析」を執筆、博士(経済学)の学位を取得した。博士論文の概要は以下の通りである。(1)既存の調査結果をもとに人々の宗教行動についてまとめた。個人や社会の宗教が経済行動に与える影響を、現代経済学の手法によって分析する宗教の経済学のこれまでの研究について整理した。(2)特定の宗教のみに適用されるヒンドゥー教徒相続法の改正により女性にも合同家族財産の相続権が与えられた州の、土地所有世帯に居住しているヒンドゥー教徒の世帯主の娘の健康状態が改善していたことを明らかにした。(3)都市の男性常用労働者においてイスラーム教徒(ムスリム)はヒンドゥー教徒より一貫して平均賃金が低く、この賃金格差は教育レベルの違いが生み出しているものが大きいという結果が得られた。さらにヒンドゥー教徒の指定カースト/指定部族とムスリムを比較すると、近年有意にムスリムの平均賃金が低くなっていた。(4)所得水準の向上は、宗教行動の相対的重要性にどのような影響を及ぼすかを検証した。「支出が高い個人ほど巡礼に行かない傾向がある」、あるいは「支出が上昇すると巡礼に行く可能性が上昇するが、他の目的の旅行より程度が小さい」という結果が得られた。宗教・巡礼目的の旅行行動には宗教グループごとに違いがあった。 研究成果については日本南アジア学会全国大会およびアジア政経学会定例研究会で報告を行った。
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