研究実績の概要 |
本研究は研究期間内に、分泌系のタンパク質であるプリオンタンパク質 (PrP)がいかにしてミトコンドリアに局在し、正常なミトコンドリアの細胞内分布を破綻させるのか、詳細な分子機構を明らかとすることを目的とする。 令和3年度の研究では、PrPのミトコンドリアへの異所性の局在に関与する分子を同定することを試みた。細胞質で合成されたミトコンドリアタンパク質前駆体は、細胞質の分子シャペロンによってミトコンドリア膜透過に適した立体構造をとり、ミトコンドリアへ輸送される。そこでPrPのミトコンドリアへの輸入に関与する当該因子として、ミトコンドリア輸送促進因子として報告され、プリオン病のバイオマーカーとしても採用されている14-3-3タンパク質に着目した。培養細胞を用いた阻害実験により、7つのアイソフォームより構成される14-3-3タンパク質のうち、14-3-3ηおよび14-3-3γがPrPのミトコンドリアへの輸入を担う分子シャペロンであることを明らかとした。また、タンパク質の凝集に関与することが報告されている14-3-3ζの発現阻害は、PrPの細胞内での凝集を抑制し、正常なミトコンドリアの細胞内分布を回復させることを見出した。 さらにPrPのミトコンドリア局在配列を認識するミトコンドリア外膜上の受容体として、ほとんど全てのミトコンドリアのタンパク質の膜透過装置として機能するTOM複合体に着目した。タンパク質前駆体のシグナルを認識する受容体として機能するTom20, Tom22, Tom70について阻害実験を行った結果、Tom70がPrPのミトコンドリア局在配列を認識する受容体であることを明らかとした。 以上を総括すると初年度の成果として、PrPのミトコンドリアへの輸入に関与する因子として14-3-3タンパク質ならびにTom70を同定することができた。
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