2022年度は細胞質におけるPrPのミトコンドリアへの標的化機構を明らかとするため、タンパク質のミトコンドリアへの局在に関与する分子シャペロンとPrPの相互作用の検出を試みた。前年度にRNA干渉を用いた阻害実験によって関与が見出された14-3-3タンパク質とPrPの相互作用の検出を免疫沈降法とウェスタンブロットを用いた実験系によって試みたところ、7つのアイソフォームから構成される14-3-3タンパク質のいずれともPrPの相互作用が検出されなかった。一方でPrPはタンパク質の輸送や分解の制御に関与し、細胞内のタンパク質恒常性を維持することが知られている熱ショックタンパク質70 (HSP70) ファミリーのHSC70と安定した複合体を形成することが見出された。14-3-3タンパク質はミトコンドリアや細胞質に局在する分子であるTOMM34を介してHSP70のリフォールディング効果を調節することも報告されていることから、14-3-3タンパク質が間接的にPrPのミトコンドリアへの標的化を制御している可能性が示唆された。 また、前年度にミトコンドリア外膜上のタンパク質の受容体であるTom複合体のうち、Tom70の発現阻害がPrPのミトコンドリアへの局在を阻害した結果を踏まえ、ミトコンドリア内におけるPrPとTom70の局在を蛍光免疫染色によって観察したところ、ミトコンドリア内においてPrPとTom70の共局在は観察されなかった。以上の結果から、ミトコンドリアに標的化したPrPはTom70によって認識された後、Tom複合体と異なる局在をとる可能性が示唆された。
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