研究課題/領域番号 |
21J10197
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
一瀬 涼 関西大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 乳酸菌 / 流加培養 / 好気的 / グルコース抑制 / 呼吸 / 高密度培養 |
研究実績の概要 |
乳酸菌がグルコース抑制が解除された状態でどういった経路で酸素を消費しているのか、そのメカニズムの解明を目的として研究を進めた。まず、ある乳酸菌株をいくつかの比増殖速度(μ)で好気的に流加培養し、代謝変化を調べた。μ=0.05 /hの時は1.6 mmol-O2/g-cell/hであった酸素比消費速度がμ=0.31 /hの時は2.8 mmol-O2/g-cell/hにまで上昇したことから、少なくともここまでの比増殖速度では酸素消費系の代謝にリプレッションがかからないと考えられる。また、比増殖速度を上げるほど乳酸の比生産速度が急激に上昇し、μ=0.05 /hからμ=0.37 /hまでで、0.1 g/g-cell/hから1.5 g/g-cell/hにまで上昇した。このことから、高い比増殖速度ではGAPDHによるNAD+消費が大きく、酸素消費によるNAD+再生では賄い切れず、LDHによるNAD+再生が起こっていると考えられる。また、比増殖速度が0.2 /hを超えたあたりからアセトインの生産も見られたため、比増殖速度が高くなるとジアセチルレダクターゼによるNAD+再生も起こると考えられる。 ここで、実際に乳酸生産を抑制しつつ培養することで高密度培養が可能となるのかを検証した。栄養バランスを改良したMRS培地で、乳酸が生産されにくいμ=0.14 /hで培養することで、通常MRS培地の静置回分培養時と比較して10倍もの菌体濃度に達した。また、呼吸鎖を活性化させる成分であるヘムを添加して酸素消費によるNAD+再生能力を増強したところ、μ=0.25 /hで培養することで、通常のMRS培地の静置回分培養時と比べ、さらに高濃度の15倍程度の菌体濃度にまで達することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定通り、グルコース抑制を解除した状態における酸素消費の能力がどこまで上昇するのか、またヘム添加によって呼吸鎖を活性化させた時の代謝変化などはある程度わかりつつある。しかし、当初予定していた酸素消費に関わる遺伝子解析に着手できておらず、乳酸菌が具体的にどういった経路で酸素を消費しているのかはまだわかっていない。これは、培地の最適化に想定よりも時間がかかり、また研究室内でコロナ陽性者が出たために何度か実験を中断したことが原因だと考えている。 現時点では代謝解析の観点からではあるが、好気条件においてグルコース抑制がかかると思われる代謝はある程度わかりつつある。次は遺伝子的観点から調べ、より具体的に解析を進める。また、乳酸菌の酸素障害や、その防御機能についてだが、予備検討の中である比増殖速度でだけ特定に過酸化水素を副生するような興味深い現象が見られている。従来の乳酸菌の培養法である回分培養では見られない現象であるため、今後の解析により新たな知見が得られると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度も引き続き乳酸菌のグルコース抑制が解除された状態における好気代謝の解明を目指す。2021年度にできなかった遺伝子的解析を中心として進めていく予定である。まず、好気的流加培養時におけるNADHオキシダーゼやピルビン酸オキシダーゼといった酸素消費系遺伝子の発現量を網羅的に調べ、酸素消費の原因を探る。特に発現量の多い遺伝子を選抜し、比増殖速度がそれらの遺伝子の発現に及ぼす影響を調べる。これにより、それぞれの酸素消費系遺伝子がどの比増殖速度でグルコース抑制を受けるのかがわかるため、グルコース抑制が解除された好気代謝を体系的に理解できると考えられる。 また、好気的流加培養時における乳酸菌の酸素障害の原因と、耐性メカニズムを解明する。まず、酸素障害を引き起こす原因を特定するために、酸素障害が見られる株とそうでない株のラジカル生成に関わる遺伝子の発現量の変化をグルコース抑制の有無を含めて調べる。また、乳酸菌の酸素障害への防御機能がどのようなものなのかを明らかにするために、過酸化水素などのストレス環境下でも生存する株を見つける。生存できない株とゲノム情報を比較し、カタラーゼ様タンパク質などの発現が予想されるかを調べる。加えて、見つかった防御機能がグルコース抑制の解除によって変化するかも調べる。 以上のようにして乳酸菌の呼吸能力の差と酸素障害の原因を明らかにし、同時にグルコース抑制の解除された乳酸菌の呼吸代謝の解明を進めていく。これらの知見を結集することで、呼吸能力や酸素障害を基準とした多種多様な乳酸菌の分類分けを行う。これにより、新規乳酸菌代謝の体系的な理解を補助するとともに、あらゆる乳酸菌を好気的流加培養するための戦略図が構築でき、これまでの乳酸菌培養の常識を覆すことができる。
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