本研究の目標はB中間子の物理量への量子色力学(QCD)効果の高精度計算の達成とそれを用いた基礎物理定数の決定である。QCD効果の摂動予言はリノーマロンによって本質的に不安定で、摂動展開は収束しない。演算子積展開(OPE)の枠組みで摂動及び非摂動QCD効果を系統的に取り入れ、摂動計算に対するリノーマロンの効果をボレル総和法を用いて適切に分離すると、OPE全体ではリノーマロンの効果は非摂動効果に吸収され、理論予言がより安定になると考えられている。一方有限次数の摂動展開をもとにしたボレル総和法によるリノーマロンの効果の分離は、実用的には困難である。 我々の研究では、ボレル総和法と等価な結果を与える摂動計算の一重積分表示の構成法(DSRS法)を開発した[2]。この積分の被積分関数は元の摂動展開の逆ラプラス変換で与えられる。逆ラプラス変換の性質から、被積分関数の摂動展開が良い収束を示すこと、典型的には有限の収束半径を持つことが解析接続によって示される。DSRS法では積分の積分路を変形することによって、ボレル総和法と等価な形でリノーマロンの効果が分離される。被積分関数の収束性から、有限の展開次数で切断した結果がボレル総和法の良い近似計算となる。物理量毎の詳細な情報は収束性の良い摂動展開を構成するためには不要であることが、DSRS法の特徴である。 我々はDSRS法を2種類の物理量、B(D)中間子質量及びB中間子の包括的セミレプトニック崩壊幅に適用した。両者をそれぞれ実験値と比較して、重いクォークの有効場理論の非摂動パラメータと素粒子標準理論のパラメータの一つである|V_cb|をそれぞれ決定した。その結果は先行研究と一致した。|V_cb|の値はB中間子の包括的崩壊または排他的崩壊のどちらで決定するかで乖離があるが、本研究は包括的崩壊の理論計算の正当性を確かめたと言える。
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