研究実績の概要 |
絡み目の橋分解の写像類群についての研究を行い, この内容について研究集会で報告し, 査読付き学術雑誌から論文を出版した. 具体的な内容は以下の通りである.今回新たに, H.Rubinstein, M.Scharlemann や J.Johnson らによって発展させられた“double sweep-outs”の手法を用いて研究を行った.これは写像のパラメーター族に関する Cerf の理論の応用とみなせる. 絡み目の橋分解に対し, sweep-out とよばれる 3 次元多様体上の関数が定まる. 絡み目の橋分解の写像類群の元を表すイソトピー (つまり 3 次元多様体内における橋分解の連続変形)に対応し, sweep-out のパラメーター族が得られるが, このパラメーター族が表すグラフィックとよばれる平面図形を観察することによって橋分解曲面に対する圧縮円盤を見つけることができる,ということが議論のポイントである.今回研究ではこの議論が 3 次元多様体の Heegaard 分解に対してだけでなく, 絡み目の橋分解の設定でも有効であることを明らかにした. 結論として次の結果を得た:“(M,L;S) を 3 次元多様体 M 内の絡み目 L の (g,n)-分解 ((g,n)≠(1,1))とする. このとき,この分解の距離 d(M,L;S) が 6 以上であるならば, 写像類群 MCG(M,L;S) は有限群である.”また,上記手法を更に発展させることにより Heegaard 分解の写像類群の有限表示を求めることができると考えており, このことについて取りまとめ近く発表する予定である. ここでは, double sweep-outs の手法に加えて, “Heegaard 分解の空間”の基本群と写像類群の関係に注目して研究を行っている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今回得られた結果は研究開始時に目標に挙げたものの1つである.写像類群の有限性を保証するための距離に関する下界 6 はこれまでに得ていた 3796 を大幅に改良するものである. 3 次元多様体の Heegaard 分解の研究において円盤複体とよばれる複体が重要な役割を果たすが, 絡み目の橋分解においては寧ろ“1つ穴あき円盤”のなす複体の方が自然にふるまうことを観察した.更に,“写像類群の有限性を保証するための定数 6 は最良か?”という問は新たな問題として残された. このように,今回の研究では新たな視点や疑問についても引き出すことができた.また, 今回の研究で double sweep-outs の手法について理解を深めることができたと考えおり, Heegaard 分解の写像類群の有限表示や Heegaard 分解の空間の研究への応用に繋がる着想を得ることができた. 以上の理由から,研究は概ね順調に進んでいると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き Heegaard 分解や橋分解の写像類群が有限群になるための条件について調べる予定である. またこれまでの研究では, 主に既約な分解の写像類群について扱ってきたが,今後は可約な Heegaard 分解の写像類群についても調べていくことを目指す. そのために “Heegaard 分解がなす空間”について調べる予定である. Heegaard 分解の写像類群は Heegaard 分解の空間の基本群と密接に関係していることが知られている. この空間は(写像類群から独立して)それ自身が非常に興味深い研究対象であり, 今後はこの空間について理解を深めていくことを目指している. 特に“Heegaard 分解のなす空間はいつ有限 CW 複体と同じホモトピー型をもつか?”という問は非常に自然な問であり,今後この問題についても扱って行きたいと考えている. 今後はこれまでの研究における手法を更に発展させつつ, 写像類群という枠組みを超えて様々な切り口から研究を進めていく予定である.
|