研究課題/領域番号 |
21J10259
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研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
高橋 昂平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 一倍体生物 / 同系交配 / 生活史進化 / 交配システム / 生殖隔離 / 性別 |
研究実績の概要 |
緑藻ボルボックス系列の一種 P. starrii が3つの性表現型を持つことを発見した成果について論文投稿し、国際学術誌 Evolution で出版された(Takahashi et al. 2021 Evolution)。これは、一倍体生物における3性共存の初めての報告例となった。緑藻ボルボックス系列では、雌雄の別がある種(ヘテロタリック)から同一株内で雌雄両配偶子を形成する種(ホモタリック)が繰り返し独立に進化してきたとされており、P. starriiは本進化の中間段階にあたる種であると推察される。本種を用いた進化生物学的研究により、ヘテロ種からホモ種への初期進化イベントの分子遺伝学的基盤を解明できると考えられる。また、交配による遺伝学的解析によって推測された3つの性表現型株の遺伝子型を確証するため、次世代シーケンサーによる全ゲノムシーケンスを実施した。得られた全ゲノム配列を性表現型間で比較解析し、ゲノム中の性決定領域を同定した。その結果、両性型株は単性型オス株と同一の性決定領域を有しており、交配で推測された遺伝子型を支持した。従って、P. starrii両性型株は単性型オス株から派生して生じたと考えられた。交配結果から、両性型を決定する常染色体上の因子の存在が示唆されており、本因子の分子実態が明らかになれば、単性型の性表現がどのような遺伝的変化を経て両性型の性表現を獲得したのかが明らかになると考えられる。さらに、緑藻ボルボックス系列において配偶子形成に関与する4遺伝子の発現を各性表現型株におけるリアルタイムPCRにより評価した。その結果、両性型株では群体レベルでの性関連遺伝子発現調節メカニズムが存在することが示唆された。両性型決定因子と性関連遺伝子発現調節メカニズムの関係を解析することで、具体的な実行因子レベルで両性型の性表現がどのように成立するのかが明らかになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、明らかになった3性表現型ゲノムの比較解析により、各性のゲノム中性決定領域と両性型株特異的な配列、すなわち両性型決定因子の候補と考えられる配列を得る計画を立てていた。前者については、既に同定が完了している。後者については、実際の比較解析の結果、両性型特異的な配列はゲノム中に多数存在しており、本アプローチのみで両性型決定因子を絞り込むのは現実的ではないと判断した。本アプローチに代わる新たな戦略を既に計画している(今後の研究の推進方策を参照)。また、P. starrii遺伝子導入系の確立も、未だ条件検討の段階にある。以上より、当初の実験計画より(3)やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
P. starrii両性型決定因子を探る新たな戦略として、過去にP. starriiが採集されている神奈川県相模川水系・琵琶湖・埼玉県伊佐沼等でフィールド調査を行って新規培養株を確立し、複数の新規単性型オス株と両性型株を用いたGWAS解析によって両性型決定因子を含むと考えられるゲノム中領域を絞り込む予定である。社会情勢によりフィールド調査が困難となった場合、所属研究室の培養株を用いて交配を行い、新規F1単性型オス株と両性型株を多数確立し、両集団の遺伝的差異をPool-seqにより検出する。両性型決定因子を含むと考えられる領域中にも複数の遺伝子が存在すると考えられるため、RNA-seqデータを併用し両性型株の性誘導条件で有意に発現量が上昇する遺伝子に着目する。また、P. starrii遺伝子導入系の確立を並行して実施する。両性型決定因子の候補を遺伝子導入実験による機能解析が可能な程度まで絞り込んだ後、単性型オス株への候補配列のノックインにより両性型化するか、また両性型株における候補配列のノックアウト(ノックアウト株の確立が困難な場合は、RNAiによるノックダウンを行う)で単性型オス化するかを調べる。P. starriiで遺伝子導入系の確立が出来なかった場合は、緑藻ボルボックス系列で既に導入系が確立されているC. reinhardtii, V. carteriで上記の解析を行う。
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