研究実績の概要 |
本課題は、交配様式進化のモデル生物群である緑藻ボルボックス系列から、3性表現型(オス・メス・両性型)が同一生物学的種内に共存する種(Pleodorina starrii)に着目し、3性表現型間での全ゲノム比較解析に基づく3性共存種の進化過程の分子遺伝学的基盤の解明を目的としている。 2022年度は、前年度に国立環境研究所鈴木重勝研究員との共同研究で構築したゲノム情報に加えて、各性表現型株についてRNA-seqを行い、遺伝子モデルの構築並びに全ゲノムアノテーションを実施した。特に、緑藻ボルボックス系列でオス配偶子形成を担う転写因子遺伝子MID, 並びにメス配偶子特異的に機能する配偶子接着因子遺伝子FUS1について、ゲノム上での存在状態並びに群体レベルでの発現比較解析を中心に展開した。その結果、MIDは、オス・両性型のSDR中で3つのホモログとなって存在し、うち2つは偽遺伝子化していた。また、FUS1は緑藻ボルボックス系列では通常、メスのSDR中に存在するメス特異的遺伝子であるが、本種ではFUS1はメスSDRではなく、3性表現型全ての常染色体領域中に存在していた。以上の結果から、MID, FUS1というオス・メス配偶子の形成及び機能を担う遺伝子のゲノム中での特異な存在状態が、3性共存のゲノム的基盤であることが推察された。さらに、定量的逆転写PCRによるMID, FUS1の群体レベルでの発現比較解析の結果、MIDはオス・両性型間で同様の発現制御機構を有するが、FUS1については異なる発現制御機構の存在が示唆された。従って、本研究課題の目的である3性共存種の進化経路について、祖先的な雌雄異株種ゲノムの大規模な再編成に加えて、新たな配偶子関連遺伝子の制御機構の獲得が必要であることが推察された。
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