研究課題/領域番号 |
21J10275
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
辰己 一輝 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ジル・ドゥルーズ / 障害学 / 批判的障害学 / 新しい唯物論 / 器官なき身体 / マイノリティへの生成変化 |
研究実績の概要 |
今年度は、当初の研究目的において掲げていた四つの小目標のうち、主に①ドゥルーズ独自の身体論の要である「器官なき身体」概念の、障害論としての射程を解明することと、④ドゥルーズのテクストを受容するようになった2000年代以降の障害学の研究動向の国内への紹介を通じて、彼の哲学と障害学研究とを架橋し、両者の理論的交渉関係を明らかにすることの二つを達成するための研究に従事した。とりわけ④の研究が大きく進展し、ドゥルーズ哲学を身体障害論という文脈で読解する上で前提となる問題意識を明確化することができた。具体的には、2000年代以降ドゥルーズの哲学を積極的に受容してきた障害学者たちのテクストの広範なサーベイを行い、その結果、障害学にとってドゥルーズ哲学が、障害者の身体を非本質主義な仕方で語るための理論として、加えて、障害者の経験の形成過程を「社会」のみならず自然環境や科学技術などの様々な対象との「関係」の布置において分析するための理論としての意義を有していることが明らかとなった。その成果は、雑誌『福音と世界』『思想』『現代思想』など複数の雑誌媒体で発表した。本研究が対象とした現代障害学の諸研究は未だ国内において翻訳・紹介がほぼ皆無の状態であり、それらの諸成果の発表を通じて、国内への現代障害学の知見の導入に努めた。 また、①に関しても、ドゥルーズの1960年代の(器官なき)身体をめぐる論述に関するテクストの精査を通じて、おおむね体系的な理解が得られ、彼の身体論が、これまで「哲学」という営みそのものから暗黙裡に排除されてきた障害者の身体を哲学的思考へと導入し、肯定的な仕方で引き受けなおすことを可能にするような理路を有している点が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、上述した小目標④を達成するための研究がおおむね完遂したこととともに、その成果を雑誌論文三本、学会発表一件と多数公表することができた。また小目標①に関しても、具体的な形での公表にまでは至らなかったものの、そのためのテクスト読解・注釈などの基礎的作業はすでにほぼ完遂しており、次年度においてその成果もまとめて公表していくつもりである。 結果として本年度は、本研究の理論的下地となる①と④の作業が着実に進展し、次年度の研究へと滑らかに移行できるだけの土台を築くことができた。以上のことから、当初の研究計画と必ずしもぴったり沿わないにしても、進捗状況としてはおおむね順調であると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度中に進められた小目標①に関する研究成果を関連する学会誌や学会発表という形で公表しながら、当初掲げていた残り二つの小目標、②ドゥルーズ政治哲学の中心への投稿や概念の一つである「マイノリティ性への生成変化」概念の、障害論としての射程を解明すること、③それら両概念をドゥルーズ哲学の体系内で統合的に理解することで「身体障害者への生成変化」という新たな観点を提示すること、の二つを達成するための作業に取り組む。その研究成果も同様に、学会誌などの複数の媒体において発表していく。
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