研究課題/領域番号 |
21J10312
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
渡 大地 大阪大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | デマンドレスポンス / ダックカーブ / ダイナミックプライシング / 再生可能エネルギー / 太陽光発電 / エネルギーマネジメント / 蓄電池 / スマート家電 |
研究実績の概要 |
再生可能エネルギーの普及障壁として、電力需要から太陽光発電の差分である実質需要が急変化を起こすダックカーブが問題となっている。本研究では、電力市場や需要家の情報を元に電力価格を時々刻々と変化させるダイナミックプライシングを通じた解決手法の確立を目指している。2021年度の研究では、主に要素技術として需要側と供給側それぞれの課題に着目して研究を行った。 まず需要家については、トレードオフの関係である電気代の最小化と居住者の温熱快適性の最大化両立を目的として、電力価格情報を元に空調や蓄電池、家電といった機器の最適な運用を行うエネルギーマネジメント手法を実現した。モデル予測制御アプローチと太陽光発や快適室温の予測手法を統合することによって、最悪でも一分以内に1秒刻みの精密な運用解を求め、比較手法より電気代と温熱快適性のより良いトレードオフが得られるようになった。 また、変動する電力価格の影響を考慮するために、電力市場価格の予測手法も重要である。時系列予測に適したニューラルネットワークと、ウェーブレット変換を用いた特徴量抽出を組み合わせ、更に関連する特徴量として需要電力量を考慮した手法により、最新手法を上回る正確な電力価格予測を実現した。 次に、供給側についてはダックカーブの解消を目的としたダイナミックプライシング手法の開発に取り組んだ。需要家の価格に対する反応や詳細なシステム構成を知ることは、プライバシーの観点から難しい。そこで、データからモデルフリーに学習することが可能な深層強化学習を用いる手法を提案することでこの課題の解決に取り組んだ。提案手法はダックカーブの実体でもある実質需要の分散を、比較手法に対して最大57%改善した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電力消費から太陽光発電を引いた実質需要と呼ばれる需要電力が急カーブを描く現象であるダックカーブに対する解決策として、電力価格のダイナミックプライシング手法を確立した。ダックカーブは再生可能エネルギーのこれ以上の導入の妨げとなる重大な問題であり、この解決策は次世代エネルギーインフラの実現のために必要不可欠であった。まず、深層強化学習を用いることで、現在の限られた情報のみから適切な電力価格の付け方を学習可能な手法を開発した。また、深層強化学習は複雑なモデルを必要としないモデルフリーな手法であるため、プライバシーを侵害せずに最低限の情報のみから価格を決定可能である。 一方、需要側において価格に基づいて最適な機器マネジメントを行うエネルギーマネジメント手法を開発した。蓄電池、時間的融通の効くスマート家電、空調のような機器のダイナミクスは大きく分けて長期と短期の2つに分けられることに着目し、分割求解手法を考案した。これにより、求解時間を削減しつつ精度の高い解を得ることができる。また、太陽光発電予測モデルと快適室温推定モデルを組み合わせることで、電気代を削減しつつ快適性を向上させる統合マネジメントを実現した。 さらに、ダイナミックプライシングを行う上で重要となる卸市場価格の予測手法も検討・開発した。 上記の研究成果については、国内外の会議で発表するとともに、複数の賞を受賞している。以上のように、着実に研究成果を挙げており、おおむね順調に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ダックカーブ解決に向けた電力システムにおける需要側と供給側の最適な協調運用手法について研究を行う。具体的には、これまでの成果であるダイナミックプライシング手法と需要家のエネルギーマネジメント手法を組み合わせて、両手法を交互に実行する大規模計算機実験を実施する。そして、ダックカーブに対してどのような影響が現れるかや、提案手法の実現可能性、最適なシステム構成についてなど、幅広く分析を行う予定である。もし、単純に交互に実行してもダックカーブが解消されない場合は、価格の設定方法やステークホルダー同士の関係を見直し、電力システムのあり方について考察を深める。 また、本研究ではそれぞれの手法を実現する上で重要となる課題にも取り組む。まず、ダイナミックプライシングに関しては、需要家によって異なる価格がつけられる可能性があるため、公平性が非常に大きな問題となりうる。したがって、公平性に関する新たな指標を考案した上で、それを満たす価格設定手法の開発を検討する。また、深層強化学習には膨大なデータが必要であり、訓練は通常シミュレータなどを用いて行われる。しかし、シミュレーションによる学習にも速度の面から限界があり、過去に測定されたデータのみを用いて効率的に学習するオフライン強化学習が求められている。一方、需要家については電力需要の予測が非常に重要となっている。電力需要ピークを予測したり、電力消費量の推移を予測したり、アプリケーションによって求められる予測機能は様々である。本研究では主にダックカーブの解消に向けて、電力消費量の推移予測を活用したエネルギーマネジメント手法を実現する。
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