研究課題/領域番号 |
21J10316
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
吉岡 将輝 筑波大学, 人間総合科学学術院, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 慢性腎臓病 / 筋力低下 / カルシプロテイン粒子 |
研究実績の概要 |
保存期慢性腎臓病患者では、加齢に伴う筋力低下が病態により顕著に加速する。近年、血中のリン酸カルシウムとFetuin-Aの複合体で形成されるコロイド粒子であるカルシプロテイン粒子が慢性腎臓病を重症化させる新しい要因として注目されている。保存期慢性腎臓病患者では腎機能低下に伴うリン排泄障害のため、血中カルシプロテイン粒子濃度が高値を示し慢性炎症状態となる。加齢などの様々な要因によって惹起される慢性炎症は筋力低下を引き起こすことから、慢性腎臓病の病態が引き起こす筋力低下の機序に血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇に伴う慢性炎症が一部関与している可能性がある。しかし、これまでに血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が筋力に及ぼす影響は全く明らかにされていない。そこで本研究では、慢性腎臓病の病態が筋力低下を引き起こす機序の一部に血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が関与するか否かを明らかにすることを目的とした。 この目的を達成するために、今年度は血中カルシプロテイン粒子濃度と筋力の関連性を検討する横断研究を実施した。血中カルシプロテイン粒子濃度は腎機能の影響を強く受けることから対象者は腎機能が正常な中高齢者182名とした。血漿サンプルを用いて血中カルシプロテイン粒子濃度を測定した。筋力の指標として握力と下肢筋力を測定した。また、筋力に強く影響を与える因子として骨格筋指数を算出した。仮説に反して血中カルシプロテイン粒子濃度は握力および下肢筋力と有意な関連性を示さなかった。一方、血中カルシプロテイン粒子濃度は骨格筋指数と有意な負の関連性を示した。この関連性は年齢、性別、腎機能などの交絡因子で調整後も有意だった。これらの結果は、血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が骨格筋量の減少に関与する可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地域広報紙への広告掲載および筑波大学附属病院腎臓内科外来において対象者を募集し、血中プロテイン粒子濃度、筋力(握力・下肢筋力)、および四肢骨格筋量などを測定する観察研究を実施した。今年度は、測定した対象者の中から腎機能が正常な中高齢者を選定し、血中カルシプロテイン粒子濃度と筋力の関連性を横断的に検討した。その結果、仮説に反して血中カルシプロテイン粒子濃度は筋力とは有意な関連性を示さなかったが、骨格筋指数とは有意な負の関連性を示した。この関連性は年齢、性別、腎機能などの交絡因子で調整後も有意だった。これらの結果は、血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が骨格筋量の減少に関与する可能性を示している。この研究成果をまとめた論文は既に専門学術誌に受理されている。このように、今年度は当初の実施計画通り研究を遂行して一定の成果が得られていることからおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究成果から、血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が骨格筋量の減少に関与する可能性が示された。しかし、この結果は横断研究から得られた知見で因果を断定することができないことが問題点として挙げられる。この課題を解決するために、血中カルシプロテイン濃度と筋力の関連性を横断的に検討した中高齢者を5年間追跡するコホート研究を実施している。今年度、4年目測定が終了していることから今後は血中カルシプロテイン粒子濃度と筋力の関連性を縦断的に検討する予定である。 さらに、先行研究において吸収率の高いリンが多く含まれる加工食品や動物性たんぱく質の過剰摂取が血中カルシプロテイン粒子濃度を上昇させる可能性が示されている。これらの知見を応用して、今後は保存期慢性腎臓病患者を含む中高齢者に3か月間の低リン食を推奨する食事指導を行う介入研究を実施する準備を進めている。3か月間の低リン食を推奨する食事指導が血中カルシプロテイン粒子濃度と筋力に及ぼす影響を明らかにする予定である。
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