保存期慢性腎臓病患者では、加齢に伴う筋力低下が病態により顕著に加速する。近年、血中のリン酸カルシウムとFetuin-Aの複合体で形成されるコロイド粒子であるカルシプロテイン粒子が慢性腎臓病を重症化させる新しい要因として注目されている。本研究では、慢性腎臓病の病態が筋力低下を引き起こす機序の一部に血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇が関与するか否かを明らかにすることを目的として検討を進めた。 2021年度の研究では、仮説に反して血中カルシプロテイン粒子濃度は筋力とは有意な関連性を示さないが、骨格筋指数とは有意な負の関連性を示すことを報告した。一方、先行研究において吸収率の高いリンが多く含まれる動物性たんぱく質の過剰摂取が血中カルシプロテイン粒子濃度を上昇させる可能性が示されている。この報告は、たんぱく源を動物性から植物性に置き換える食事介入が、血中カルシプロテイン粒子濃度の上昇抑制を介して、骨格筋量の低下抑制に有効である可能性を示している。そこで、2022年度の上半期は、保存期慢性腎臓病患者を対象とした横断研究を実施し、食物摂取頻度調査票を用いて評価した植物性・動物性たんぱく質摂取率とリン利尿ホルモンである線維芽細胞増殖因子23 (FGF23) の血中濃度との関連を検討した。その結果、血中FGF23濃度は植物性たんぱく質摂取率と有意な負の関連を示し、動物性たんぱく質摂取率と有意な正の関連を示した。この知見に基づき、2022年度の下半期は、3か月間のたんぱく源を動物性から植物性に置き換える食事介入が血中カルシプロテイン粒子濃度と骨格筋量・筋力に及ぼす影響を検討する介入研究を実施した。研究は無事終了し、現在はデータ解析中である。データ解析終了後、論文化を進めていく予定である。
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