生体内の配向性構造を有する組織は,ナノからマイクロメートルスケールの配向によって機能が発現する場合がある。しかし,この配向構造の形成機構が解明されておらず,生体に類似する高い配向性ナノ構造の模倣が人工的に実現していない。そこで,本研究では,摩擦転写 (ラビング) 処理したポリイミド (PI) 膜の物理・化学的な異方性を利用して,その表面での自己組織化による配向性ナノシリンダー型バイオマテリアルの創製技術の創成に着想した。生体組織の配向構造を模倣し,ラビング処理によって形成したPI膜表面におけるナノシリンダー型バイオマテリアルの配向機構を評価・考察した。 ラビング処理強度を変えることでナノグルーブと化学官能基の配向性を有するPI膜を作製し,配向性コラーゲン (Col) フィブリルの一軸配向構造を創製し,Col分子とPI膜の相互作用、Colフィブリルの配向機構及び配向性Colフィブリルへのリン酸カルシウム (CP) 析出について評価・考察した。その結果,ラビング処理強度を変えることでPI膜表面にナノグルーブが形成されることを見出した。特に,ラビング強度が2.4 mの条件下ではPI膜表面にナノグルーブが最も効果的に形成し,高い密度を有する配向性Col フィブリル配向構造の形成を誘導した。Col分子がラビング処理と同方向に吸着・配向し,ラビング処理方向と垂直方向に配向したPI表面のC=O基とCol表面β-Sheetのアミノ基の間に水素結合が生じることでCol分子がPI膜のナノグルーブ内でフィブリル化されたと考察した。さらに,Colフィブリルを擬似体液へ浸漬し,Colフィブリル表面に露出したカルボキシレートイオンをCP形成場としたところ,配向性Colフィブリル表面にCP結晶が析出した。これらの結果から,ラビング処理したPI膜におけるナノグルーブ形成と化学官能基の配向性を利用し,配向性Colフィブリル配向技術を確立し,CP析出を実現した。
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