研究課題/領域番号 |
21J10331
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
井上 奉紀 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 余剰次元 / 量子グラフ / インスタントン / ADHM構成法 |
研究実績の概要 |
本年度は,量子グラフを余剰次元とする5次元余剰次元模型の解析を行った.特に,この上の5次元Diracフェルミオンの質量スペクトルのうち,masslessのカイラルゼロモードを研究した.量子グラフとは,線分と頂点で構成される回路状の量子系で,この上のカレントが保存することが要求されている.カレント保存の条件は頂点での線分の境界条件に書き変えることができて,パラメータ自由度をもつ条件式が得られるという特徴を有する.この模型ではカイラルゼロモードに複数の縮退を実現でき得ることがわかっている.また,この性質を使って標準模型の世代数問題を解決し得るという期待がある.一方で,標準模型の世代構造を説明し得る境界条件が複数存在することも明らかになっている. そこで本研究では,複数存在する境界条件をトポロジカルな観点から分類することを行った.具体的には,Berry接続と呼ばれる空間のトポロジーを反映した量に着目し,境界条件のパラメータ空間に応用することで分類した.その結果,パラメータ空間のBerry接続としてインスタントン配位を得ることができた.また,その配位が得られる境界条件と,得られたない境界条件とに分けることができた.この構成はADHM構成法と呼ばれるインスタントン解を一般に構成する手法を適用することができたため,系統的に議論することに成功した.境界条件の自由度をもつ量子系を研究した他の文献では,主にモノポール配位を議論している.本結果は,インスタントン配位をBerry接続として構成するというこれまであまり議論されていないものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では,量子グラフのパラメータ空間の構造を調べることを行った.線分が多い量子グラフを余剰次元とする場合には,そのパラメータ空間は非常に大きくなる.そこで,それらを系統的に調べるために,パラメータ空間のトポロジーに着目することにした.これにより,パラメータ領域で連続的につながる部分領域についても同時に解析することができ,しらみつぶしな解析の必要がなくなると考えた.空間のトポロジカルな構造を調べる方法として,Berry接続を調べるということが有効である.空間の中で一周するようなパラメータの連続変形をした際に,非自明なBerry接続が得られる場合には,その空間は非自明なトポロジカル構造を持っているとみなせる. 我々の模型に対して,量子グラフの境界条件のなすパラメータ空間のBerry接続を解析した.結果としては,インスタントン配位をBerry接続として構成することができ,その構成にはADHM構成法と呼ばれる任意のインスタントン配位を構成する手法がそのまま応用できた.しかしながら,今回構成したインスタントン配位は,実際の空間に存在する量ではなく,あくまで境界条件のパラメータ空間に存在するものである.そのため,配位そのものが現実の空間においてどのような物理量として反映されているのかという議論は不十分である.そのため,トポロジーに着目した境界条件の分類として,他の着眼点から解析や分類を行い,本結果と付き合わせる必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は,量子グラフのもつ境界条件のパラメータ空間をさらに調べることである.我々の余剰次元模型は,素粒子標準模型における世代数問題やフェルミオンの質量階層性を解決し得る.また,これらの問題を解決可能な量子グラフの境界条件は多数あることが明らかになっている.そのため,現象論的に望ましい境界条件を見つける必要がある.今年度の研究によって,パラメータ空間のトポロジーに着目した解析は非常に強力であることが分かった.トポロジカルにつながっている境界条件同士は,カイラルゼロモードの個数の差は等しくなる.これは,標準模型における世代構造を説明するという我々の目的に朗報である.なぜなら,世代構造を量子グラフ(余剰次元)の位相不変量として得ることができるため,多数存在する境界条件から適切なものを抜き出すことができると期待される.次年度以降に具体的に着目する位相不変量として,トポロジカル物性における分類理論を応用できるのではないかと期待している.特に,対称性によって保存された相の分類は,量子グラフの境界条件の分類に適用できると考えている.
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