本研究は、魏晋南北朝隋唐時代の陶俑を研究対象とし、①その外形に表出した制度・文化の解明、および②製作痕跡からみえる製作工程や技術、生産体制の復元という2方向からのアプローチをおこなってきた。 ①陶俑の外形に表出した制度・文化の解明に向けては、主に二次資料と文献史料から分析を進めた。まず魏晋南北朝時代の俑群に特徴的な「出行儀仗」類の核となる騎乗用馬を象った陶馬について基礎的な整理をおこなった。騎馬の地位の上昇という交通史上の画期に通ずる馬具・馬装の変容が、当該時期の陶馬から読み取れるという結果を得た。そして、この成果および、前年度に学会にて途中経過を発表した「椅子式牛車についての一考察」を含む内容を博士学位申請論文としてまとめ、大学へ提出した。 さらに、日独二国間学術交流JSPSセミナー(DFGワークショップ)「美術史学・考古学から見た伝統東アジアにおける「見えない」ものの変容」に参加してドイツの研究者との情報交換をおこなったことで、南朝俑と北朝俑それぞれの性質について新たな視角を得た。 ②前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染拡大の影響により中国国内での調査は叶わなかったが、前年度に進めていた三次元モデルを生成するための写真撮影の申請手続きが受理され、撮影と三次元モデルの生成が実現し、そのモデルを比較することで陶俑の生産体制解明につながる重要な結果が得られた。成果発表については所蔵先との協議の段階に入っている。その中ではさらに、陶俑の考古学的研究において、三次元モデルは従来の図面や拓本に替わるものとして、資料に関する情報の伝達に不可欠になることを確かめた。
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