研究課題/領域番号 |
21J10412
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
益田 快理 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 強誘電性 / 転位 / マルチフィジックス / フェーズフィールド法 / チタン酸ストロンチウム |
研究実績の概要 |
申請者は、フェーズフィールド解析により、固体中の転位と呼ばれる原子スケールの欠陥が超微小な演算素子となり得ることを示した。以下に研究実績の概要を示す。(1)STO中の転位周りの強誘電性の発現:チタン酸ストロンチウム(STO)は無負荷時では電気分極のない常誘電材料だが、一定以上のひずみを加えることで電気分極を示し強誘電性になる。一方、転位と呼ばれる原子配列の乱れによる欠陥は、その周りにナノスケールのひずみ領域を形成する。このことから、STO中の転位周りに超微小な強誘電領域が形成されることを、フェーズフィールド解析で示した。(2)転位周りの分極分布の解明:転位には、主に引張りひずみを形成する刃状転位と、主にせん断ひずみを形成するらせん転位がある。また混合転位は刃状転位とらせん転位の中間的な構造であり、引張り・せん断ひずみの両方を持つ。このひずみの違いにより、まず、刃状転位まわりには転位に垂直な直線的な分極が現れた。また、らせん転位周りには転位に水平ならせん状の分極が現れた。混合転位周りでは、それらの重ね合わせである、歪んだらせん状の分極分布が表れた。(3)電場負荷による分極反転特性の解明:次に、刃状、らせん、混合転位に電場を与え、その周りの分極の反転挙動を調べた。刃状転位は転位に垂直な方向からの電場で反転したものの、水平方向からの電場では反転しなかった。また、らせん転位まわりの分極は、水平方向からの電場で反転したものの、垂直方向からの電場では反転しなかった。つまり、電場を入力、分極反転を出力とすると、刃状・らせん転位は1入力1出力である。一方、混合転位周りに形成される分極は、転位に水平・垂直の両方の電場から反転された。これは、混合転位が刃状転位とらせん転位の重ね合わせであるためと考えられる。この2入力1出力の構造から、混合転位がANDやORといった計算ができることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は順調に進み、物性物理の専門誌であるPhysical Review Bに投稿した。査読を通じて無事掲載することができた。また、構造欠陥は固体材料中だけでなく、DNAといった生体内の構造体にも形成される。このことから、欠陥による超微小領域での機能設計という考え方を生体にまで拡張できることに思い至った。また、博士号取得後は海外で研鑽を積みたいという思いもあり、博士論文の執筆と並行して、海外の生物系の研究者と連絡をとり始めた。このような海外の研究者とのやりとりの中で、イギリスの大学の研究室から受け入れ許可を得ることができた。このため、2021年の10月からはイギリスに渡り研究を続けている。以上のように、当該年度の後半に関しては論文といった明確な研究成果は少ないものの、本研究を分野外へ拡張する端緒を得た。現在は受け入れ先の研究者と相談し、DNAの量子計算からイオン化ポテンシャル等の諸性質の解析を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進展しており、今後の研究方針として以下の項目を実施する予定である。(1)DNAに欠陥等を加えた状態で量子計算を行い、その性質の変化を明らかにする。(2)DNAに電場等の外部負荷を与え、さらにDNAの性質の変化を明らかにしていく。(3)これらの結果から、強誘電性といった固体中の現象のみならず突然変異といった生体内の現象も含めて、欠陥による機能設計の方法論を構築していく。
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