研究実績の概要 |
これまでの研究から、時の流れる方向の判断には、右大脳と左小脳からなる大脳―小脳連関が関与することが示された。この結果から、「ヒトは、順モデルが提供する、次の展開の予測情報を利用し、現在の視覚情報が予測情報と一致するか否かによって、時の流れる方向を判断する」という仮説を立てた。 本年度は、この仮説を検討するため、経頭蓋静磁場刺激法(transcranial static magnetic stimulation, tSMS法)を用いた実験を行った。具体的には、判断に関与する脳領域へ静磁場刺激を与え、活動を抑制することで、脳活動と時の流れる方向の判断実施との因果関係を明らかにすることを目的とした。本年度は、(1) 実験に用いる自然動画刺激の選出と実験条件の設定、(2) tSMS実験の実施、(3) データの解析、(4) 学会での発表、(5) 論文の執筆、(6) 国際誌への投稿を予定していた。達成状況として、(1)から(6)を完遂した。 解析の結果、時の流れる方向の判断に関与する、右大脳または左小脳に静磁場刺激を与えた条件では、2つの統制条件(静磁場刺激に用いた磁石と同じ大きさ・重さの鉄塊を用いた条件、時の流れる方向の判断に関与しない脳領域に静磁場刺激を与えた条件)のそれぞれと比べて、判断にかかる時間が有意に長くなった。このことから、脳活動と判断実施の間の因果関係が示され、ヒトは、時の流れる方向の判断のために順モデルを援用しているとする仮説が支持された。以上から、本年度は期待通りに研究が進展した。
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