研究課題/領域番号 |
21J10526
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西岡 千尋 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | アリストテレス / 形而上学 / 写本伝承 / 古註 / イデア数 |
研究実績の概要 |
2021年度はアリストテレス『メタフュシカ(形而上学)』MN巻の研究を、①資料論、②受容史、③本文の哲学的理解の三点にわたって、以下のとおりに進めた。 ①資料論:MN巻の本文に関わる伝承(ギリシア語写本、中世翻訳、古註)の状況を、他の巻の状況(とくに文献学的な研究が進んでいるΑ巻とΛ巻)と比較しつつ整理した。MN巻の伝承には、ギリシア語写本の系統に問題があり、アラビア語資料に恵まれないという特徴がある。したがって正文批判のさいにも、『メタフュシカ』の他の巻(とくに前半部分)とは異なるアプローチが必要になる。比較的に優先順位が高いと思われるのは、幾つかの最も重要なギリシア語写本(E写本やJ写本)の再調査である。 ②受容史:MN巻について書かれた二つの古註(シュリアノスによる註解と擬アレクサンドロスによる註解)を対象として、二次文献(とくにC. Lunaによる研究)も参照しながら、両者におけるアリストテレスのテキストの扱い方を観察した。二つの古註は時代的な背景だけでなく、形式や定型表現、執筆動機など、様々な点で異なっている。とりわけアリストテレスのプラトニスト批判への対応に著しい違いが認められ、MN巻の構成の理解にも影響を及ぼした可能性がある。次年度は両註解全体を精読し、本観察を個々の論点と結びつけたい。 ③本文の哲学的理解:今年度はM巻の中心部に当たるイデア数批判(6-9章)、およびN巻の「不定の二」の原理への批判(1-2章)まで本文の精読を進めた。イデア数およびその原理に対するアリストテレスの議論は、哲学と問答法という方法論的な差異、また第一哲学と数学という領域的な差異の両方を念頭において、その区別を明確にしない論敵の問題を衝くものであったと思われる。今後の課題は、この批判的仕事の形而上学における必要性と位置を問うこと、ならびにMN巻の接続部とN巻3-6章の精読である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MN巻の包括的研究のための三つの点(①~③)において、おおむね当初予定していた計画の通りに進めることができた。研究成果の一部を三本の論文にして発表した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究を通じて、①資料論、②受容史、③本文の哲学的内容の各部分における今後の課題を明確にすることができた。したがって研究の枠組みや方針に変更は加えず、本年度の延長上の仕事として次年度の調査を進める。
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