本研究では、構造欠陥を導入した金属有機構造体(Metal-Organic Framework; MOF)光触媒の開発とその高活性化を目的としている。本年度は、前年度で確立した構造欠陥手法のさらなる応用展開とMOFの構造欠陥がもたらす光触媒活性向上要因の解明を行った。 ソルボサーマル合成時に酢酸を添加する欠陥導入手法を用いることにより、Hf系-MOFにおいても、リンカー欠陥を選択的かつ欠陥量を制御して導入することに成功した。本触媒を光触媒的過酸化水素生成反応へ適用したところ、MOF光触媒への構造欠陥の導入により、過酸化水素生成量が大幅に増加した。実験的検討と量子科学計算の結果から、リンカー欠陥による光触媒活性はリンカーの非放射性緩和過程の抑制に由来するものであると推察された。この結果は、既存研究で提唱されていた活性向上機構とは異なる新たなリンカー欠陥による光触媒活性向上機構を提案するものである。 さらなる高活性化を目的として、リンカー欠陥量を最適化したHf-MOFに対して、Ni助触媒の担持を行った。リンカー欠陥の導入と助触媒担持を組み合わせることで、相乗効果が発現し、過酸化水素生成量が著しく向上した。本触媒は、水を電子源とした過酸化水素生成反応に対して既存のMOF触媒を凌駕する性能を示すことを見出した。これは担持したNi助触媒がMOFで生成した励起電子-正孔の電荷分離を起こすことに加え、水の酸化反応における極めて高い過酸化水素選択性を持つためであると推察された。 以上のように、当該年度においてはリンカー欠陥手法の応用展開やさらなる高活性化に成功し、リンカー欠陥によるMOFの光触媒活性向上機構に関する新たな知見を提案した。これらの研究は、今後のMOF光触媒材料の開発に対してその設計指針を提供するものである。
|