研究実績の概要 |
薬剤は特定の標的分子に作用することで薬効を発揮するが、薬剤の標的分子以外への相互作用(off-target効果)は予期しない副作用を引き起こす原因となる。一方、副作用と新たな薬効の発見は表裏の関係にあり、off-target分子から新たな薬効を見出すことができれば、既存薬の薬効再評価に繋がる可能性もある。本研究は、我々が独自に開発した新規Ca2+/Calmodulin(CaM)依存性タンパク質リン酸化酵素活性化キナーゼ(CaMKK)阻害剤 TIM-063をモデル化合物として、キナーゼ阻害剤の相互作用分子を網羅的に同定する手法を確立し、本阻害剤の潜在的off-target分子と新たな薬効を推定することを目的とする。 細胞抽出液のようなタンパク質混合溶液からTIM-063の相互作用分子を単離、同定するため、まずTIM-063を化学架橋させたTIM-063結合セファロースを作製した。作製したTIM-063結合セファロースは夾雑タンパク質を含む条件下においても、標的分子であるCaMKKが選択的に結合し、遊離のTIM-063によって競合的に溶出されることが確認できた。そこで、TIM-063結合セファロースを用いて、様々なマウス組織(大脳, 小脳, 筋肉など)に含まれるTIM-063相互作用分子の同定を試みた結果、新規相互作用分子候補として、AP2関連プロテインキナーゼ(AAK1)を含む複数のキナーゼ群が同定された。試験管内において、動物細胞より発現・精製したAAK1に対しTIM-063は酵素活性抑制効果を示したことから、酵素の阻害剤相互作用と活性阻害との一致が確認できた。今後は阻害剤相互作用分子探索法のさらなる改良、および細胞内におけるTIM-063のAAK1阻害効果の検討とTIM-063をリード化合物とした新規AAK1阻害剤の探索を行っていく予定である。
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