無磁場下で生じるホール効果は異常ホール効果と呼ばれ、次世代デバイスの操作原理として期待されている。そのデバイスへの実用的な応用展開には、エネルギー効率の劇的な向上が必須である。しかしながら、候補物質を網羅的に実験検証することは極めて困難であるため、本研究では、計算科学に基づくアプローチからエネルギー散逸の低い理想的な異常ホール材料を理論的に提案することを目指した。異常ホール効果は、主にエネルギーバンドの幾何学的な構造に由来する内因的機構と不純物散乱に由来する外因的機構の二つの機構に由来する。特に外因的機構を含めて異常ホール伝導率を計算するためには、最初に合金のグリーン関数を構築し、得られたグリーン関数に線形応答理論を適用して伝導率を計算する必要がある。しかしながら、従来の合金のグリーン関数の計算では、元素置換されたサイトを自己無撞着に定められた平均的なポテンシャルで置き換える合金の計算と、高度な第一原理的電子状態計算手法が組み合わされて計算されることが一般的であったため、計算コストが非常に高く、より現実的な複雑な結晶系への適用は不可能であった。本研究では、初年度の段階として、従来の手法より計算速度を一桁程度改善する合金のグリーン関数の計算手法を開発に成功し、論文投稿に至っている。今後、この計算手法で得られた合金のグリーン関数に電流演算子を作用させることで、より複雑な結晶系でも計算可能な異常ホール伝導率計算コードを完成させる予定である。
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