研究実績の概要 |
NLRP3は、内因性の生理活性物質や代謝物といった非感染性の広範な化学物質をストレスとして認識することでインフラマソームを形成し、炎症反応を惹起する。そのためNLRP3インフラマソームは、広範なストレスを受容する最も重要なインフラマソームとして位置付けられている。しかし一方で、NLRP3インフラマソームの過剰な活性化は、多種多様な炎症性疾患の発症に関与することが明らかとなっている。申請者は臨床現場で汎用されているβ-ラクタム系抗菌薬の一種が、NLRP3インフラマソームの活性化を強力に抑制することを発見した。本研究では、抗菌薬A (特許関係のための仮称) のNLRP3インフラマソーム阻害剤としての分子基盤を確立すると共に、マウス病態モデルを用いた解析を行い、抗菌薬Aの炎症性・自己免疫性疾患の新たな治療薬としての妥当性を評価することを目的として研究を遂行した。 本年度の研究では、①抗菌薬AのNLRP3インフラマソーム関連疾患モデルマウスへの有効性評価、②抗菌薬Aによる NLRP3インフラマソーム阻害機構の解析を行った。モデルマウスへの有効性評価では、エンドトキシンやゲフィチニブ投与による肺炎病態が抗菌薬Aの投与によって改善されることを明らかにし、抗菌薬Aの炎症性・自己免疫性疾患の新たな治療薬としての臨床的有用性が示唆された。また、NLRP3インフラマソーム阻害機構の解析では、抗菌薬AがNLRP3インフラマソームの活性化に必要とされるミトコンドリア障害(ミトコンドリア膜電位の低下)を抑制していることが明らかとなった。一方で、抗菌薬Aの標的因子を探索する過程で、NLRP3インフラマソームがミトコンドリアの恒常性維持に関わるSrc Family Kinases (SFKs) の機能低下を感知して活性化するという重要な知見を新たに見出した (Sekiguchi et al., The Journal of Immunology, 210 (6), 795-806, 2023)。
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