研究課題/領域番号 |
21J10638
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山田 真佑花 東北大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 細胞死 / 癌治療 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
抗癌剤治療は、手術不能な症例や転移した癌にも有効であることから、必要不可欠な癌治療法である。しかし、「抗癌剤耐性」と「重篤な副作用」の2点が、抗癌剤治療における大きな障壁となっている。申請者は、YMD424(特許申請中のため仮称を用いる)は正常細胞には影響を与えない一方で、癌抑制因子であるp53機能欠損細胞に対して特異的に細胞死を誘導することを見出した。その後の解析により、p53と同様に癌抑制因子として知られるSTK11の機能欠損細胞に対して、より顕著に細胞死を誘導することが判明した。従って、YMD424はp53やSTK11の機能欠損癌細胞に対する抗癌剤として有望であると考えられた。そこで申請者は、「YMD424を用いた革新的癌治療戦略の構築」を目的とした研究を実施している。 STK11欠損細胞は、p53 欠損細胞よりも顕著にYMD424依存的な細胞死が誘導されたことから、YMD424はSTK11機能欠損癌細胞に対して、より強い抗癌作用を示すことが示唆された。そこで本年度は、YMD424が誘導する細胞死の誘導機構を解明するため、STK11欠損細胞を用いて解析を行った。その結果、YMD424が誘導する細胞死は既知のプログラム細胞死には該当せず、全く新しい様式の新規プログラム細胞死であることが明らかとなった。また、YMD424の処置によってミトコンドリアの外膜透過に伴うミトコンドリア膜電位の低下が見られたため、YMD424はミトコンドリアを標的としていることが示唆された。さらに、ミトコンドリアに着目した解析を行い、ミトコンドリアの膜電位低下を促進する分子であるBIDがYMD424による細胞死を誘導することを見出した。また、興味深いことに、STK11は、ミトコンドリアにおいてYMD424依存的なBIDの機能を抑制していることも明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、YMD424が誘導する新規細胞死の誘導機構と、癌抑制因子STK11による細胞死抑制機構の解析を行った。当初は、癌抑制因子p53による細胞死抑制機構の解析を進める予定だったが、その後の解析により、p53と同様に癌抑制因子として知られるSTK11の機能欠損細胞に対しても、YMD424がより顕著に細胞死を誘導することが明らかとなったため、より顕著に細胞死が誘導されるSTK11欠損細胞を用いた解析を優先して行った。また、YMD424が誘導する細胞死は、当初、非アポトーシス型細胞死、パータナトスであることが示唆されていたが、p53やSTK11の機能欠損細胞に対してYMD424が誘導する細胞死は、パータナトス誘導に必要とされる分子PARP-1のノックダウンや欠損によって抑制されなかったことから、既知のプログラム細胞死には分類されず、全く新しい様式のプログラム細胞死であることが判明した。以上の結果を踏まえ、YMD424が誘導する新規細胞死の誘導機構を解析した結果、YMD424が誘導する細胞死はミトコンドリアの外膜透過性上昇を伴うことや、ミトコンドリアから放出されるヌクレアーゼによって誘導されることが新たに判明し、YMD424がミトコンドリアを標的としていることが示唆された。 これらの結果から、YMD424が癌抑制因子の欠損細胞に対して発揮する抗癌作用の分子機構が明らかとなり、本機構の解明によって癌治療への応用が期待される。また、YMD424が誘導する細胞死の誘導機構の解析が進んだことで、YMD424誘導性細胞死に対するSTK11の抑制機能も明らかとなった。STK11の癌抑制因子としての生理機能は未解明な点が多く残されているが、本研究により、STK11の新たな癌抑制機能を説明できる可能性が示唆されている。よって、当該年度に遂行した、STK11欠損細胞に対してYMD424が惹起する新規細胞死の誘導機構の解析は順調に進展したと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究によって、YMD424はp53やSTK11の欠損細胞に対して特異的に、新規プログラム細胞死を誘導することが明らかとなった。特に、STK11欠損細胞を用いた解析から、YMD424による細胞死の誘導機構として、ミトコンドリアの外膜透過性上昇を伴うことや、ミトコンドリアから放出されるヌクレアーゼによって誘導されることが新たに判明し、YMD424がミトコンドリアを標的としていることが示唆された。しかしながら、YMD424の直接的な標的は未だ不明である。そこで次年度においては、まず、in vitroのタンパク結合や機能を解析する実験系を構築する。これにより、YMD424が実際に直接作用する標的の解析を進める。また、YMD424が誘導する細胞死に対するSTK11の抑制機能についても、今年度のミトコンドリアに着目した解析の結果から、STK11とミトコンドリア制御因子Xが結合し、YMD424依存的なBIDのミトコンドリア移行が抑制されることが示唆された。今後は、まずYMD424が誘導する新規細胞死に対するミトコンドリア制御因子Xの必要性を検討する。また、STK11は多くの癌組織において変異が報告されているため、これら変異型のSTK11(YMD424誘導性細胞死を抑制できない)について、ミトコンドリア制御因子Xとの関連を詳細に検討し、YMD424が誘導する細胞死に対するSTK11の抑制機能の全容を解明する。さらに、YMD424の癌治療薬としての生体内での有用性を検証するため、ゼノグラフトモデル(ヒト由来癌細胞を免疫不全マウスに移植)を用いた解析を行う。具体的には、免疫不全マウスにSTK11の欠損癌細胞を皮下移植して癌組織を形成させ、YMD424を投与によるYMD424の癌組織の縮小効果や癌転移抑制効果を評価する。課題として、抗菌薬であるYMD424は代謝速度が速く、血中濃度の維持が困難であることから、アルゼット式投与ポンプの利用や代謝阻害剤の利用を検討する。
|