抗癌剤治療は、手術不能な症例や転移した癌にも有効であることから、必要不可欠な癌治療法である。しかし、「抗癌剤耐性」と「重篤な副作用」の2点が、抗癌剤治療における大きな障壁となっている。申請者は、YMD424(特許申請中のため仮称を用いる)は正常細胞には影響を与えない一方で、癌抑制因子であるp53やSTK11機能欠損細胞に対して特異的に細胞死を誘導することを見出した。従って、YMD424はp53やSTK11の機能欠損癌細胞に対する抗癌剤として有望であると考えられた。特にSTK11欠損細胞は、p53 欠損細胞よりも顕著にYMD424依存的な細胞死が誘導されたことから、YMD424はSTK11機能欠損癌細胞に対して、より強い抗癌作用を示すことが示唆された。そこで本研究では、「YMD424を用いた革新的癌治療戦略の構築」を目的とした研究を遂行した。 昨年度までの解析から、YMD424が誘導する細胞死は、全く新しい様式の新規プログラム細胞死であることが明らかとなった。さらにその誘導機構として、YMD424は、ミトコンドリアの膜電位低下を促進する分子であるBID依存的に細胞死を誘導することが明らかとなった。そこで本年度は、YMD424の作用点を明らかにするため、BIDに着目した解析を進めた。その結果、YMD424はミトコンドリアにおいて切断型BIDとミトコンドリア制御因子Xを結合させることで、切断型BIDをミトコンドリアへと移行させ、ミトコンドリアの膜電位を低下させていることが判明した。さらに、in vitro実験系の結合解析により、YMD424は、切断型BIDとミトコンドリア制御因子Xを直接結合させていることが判明した。また、興味深いことに、STK11は、ミトコンドリアにおいてミトコンドリア制御因子Xと結合し、切断型BIDとの結合を阻害することでYMD424依存的なBIDの機能を抑制していることも明らかとなった。
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