機能性反強磁性体の薄膜を微細加工することにより、スピン吸収測定用面内スピンバルブ素子を作製した。実験手法としては、電子線リソグラフィやイオンミリング、電子線蒸着を行い、細線加工後も抵抗率の温度依存性が金属的な振舞いを示すことを確認した。この素子を用いて非局所スピンバルブ測定を行い、線幅と厚みが数10 nmスケールの細線内に生じるスピン蓄積を求めた。非局所スピンバルブ測定とは、磁性体と非磁性中における電気化学ポテンシャルの平衡点が異なることを利用し、両者間の非局所電圧を測定することによってスピン蓄積の大きさを求める手法である。この手法では磁性体の有効磁化の大きさと保磁力が重要なパラメータとなるため、薄膜の配向性に依存した応答の大きさが得られる。 特にスピン吸収測定では、強磁性体から非磁性体中に電荷電流を流した際、拡散したスピン流の一部が対象物質に吸収されることから当該磁性体のスピン拡散長を求めることが可能になる。また、吸収されたスピン流は逆スピンホール効果により電流変換され、この電圧信号を測定することにより変換効率であるスピンホール角も求まる。両者を利用し、スピン拡散長と電気縦伝導率の温度依存性を比較するとスピン緩和機構に対する理解を深めることが可能となる。過去の研究により両者の温度依存性は測定物質の相転移等によって特異な振舞いを示すことが示唆されており、現在解析を進めているところである。
|