研究実績の概要 |
効率性は、限られた資源を用いて住民の健康向上を目指す上で重要である。本研究の目的は、地方自治体による地域保健対策の包括的な効率性評価を行うことである。本年度は予定通り、①乳幼児の不慮の事故予防対策の効率性に関する成果発表と、②介護保険法に基づく高齢者のフレイル予防対策の効率性を推定した。 ①について、予防対策の効率性が、乳幼児の不慮の事故によるDisability-adjusted life yearsの都道府県格差へ寄与する点を明らかにし、国際学術誌に掲載された(Hashimoto, et al. Front Public Health. 2022)。 ②について、介護保険事業状況報告等の政府統計を用い、2009年から2014年の1003保険者(東日本大震災被災、人口1万人未満を除く)の効率性を、生産関数に基づく確率的フロンティア分析で推定した。アウトプットは要介護1、2認定者数のOE比、インプットは予防給付と地域支援事業の実施量とした。その結果、効率性は全国的に高く、保険者格差も小さいことが明らかになった。政府による標準化された質の管理と、保険者による分権化された運用体制が、地域間で等しく効果的なフレイル予防対策を実現した可能性が示された。さらに、公的な介護保険導入を議論する際、予防給付を検討する有用性を示したが、費用対効果については今後の研究が必要である。本結果は国際学術誌に投稿中である。 本研究は、地方自治体による地域保健対策の中で、乳幼児と高齢者の予防対策に着目し、経済学モデルに基づき効率性を初めて可視化した点で、効率的な公衆衛生行政を推進する学術的基盤の構築に貢献した。
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