研究課題/領域番号 |
21J10765
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂田 七海 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | アブラナ科植物黒斑細菌病 / 病原力因子 / 植物抵抗性誘導剤 / アシベンゾラルS-メチル / キャベツ / ダイコン / エンバク |
研究実績の概要 |
本研究では、課題(1)アブラナ科植物黒斑細菌病菌 (Pseudomonas cannabina pv. alisalensis: Pcal)の感染機構の解明、および、課題(2)植物抵抗性誘導剤アシベンゾラルS-メチル (ASM)による細菌病防除の作用機構の解明、という大きく2つのアプローチから、アブラナ科植物黒斑細菌病における植物―病原細菌の相互作用の解明に取り組んでいる。 課題(1)においては、Pcalが毒素コロナチンを生産することにより、植物の防御応答によりとじた気孔を再開口させ、Pcalの主な侵入場所である気孔からの植物内への侵入を可能していることを明らかにした。さらには、植物内に侵入後には、サリチル酸蓄積を抑制して増殖を可能にしていることを明らかにした。また、病原力が著しく低下するトリプトファン代謝変異株感染時には、主要な病原力因子であるコロナチンやⅢ型分泌機構の関連遺伝子の遺伝子発現が低下していることを明らかにした。これらの結果から、細菌増殖のためのアミノ酸代謝と、病原力因子の生産コストとの間にトレードオフの関係があることが示唆された。 課題(2)においては、植物抵抗性誘導剤ASMは、気孔防御を活性化することにより、Pcalの植物内への侵入を阻害していることを明らかにした。また、キャベツとダイコンに対して、ASMが全身獲得抵抗性を誘導することから、移行物質の特定に取り組み、アシベンゾラル酸がASMの移行物質であることが明らかになった。 さらには、本研究を通して、気孔の開閉をめぐる植物と病原細菌の好悪棒が感染の成否をめぐる重要な局面となっていることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、アブラナ科植物黒斑細菌病菌Pcalの病原力因子の解析として、コロナチンとアミノ酸代謝の病原力における役割の解明を進めた。さらには、どちらの研究成果においても、令和3年度中に国際誌に投稿、受理された。 植物抵抗性誘導剤ASMの作用機構の解明においては、令和4年度実施予定であった移行物質解析を行ない、アシベンゾラル酸が移行物質として重要な役割を担っていることを明らかにした。加えて、作物種や処理方法によっても、ASMによる全身獲得抵抗性の誘導速度が異なることを見出しており、今後非常に有益な知見となる結果を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
Pcalの病原力因子として、トランスポーターの病原力における機能解析に関する成果を、国際誌に投稿する。また、べん毛タンパク質の機能解析を行う。べん毛は、細菌が宿主植物への侵入するための遊泳能力に関わるため、広く保存されている。そのため、植物側は病原細菌をべん毛タンパク質のflg22を認識して抵抗性を発揮する。しかし、Pcalのべん毛タンパク質は、他のPseudomonas属菌と比較して、アミノ酸配列が異なっており、Pcalは、植物による認識を回避するためにアミノ酸配列を変化させたのではないかと考えられる。この仮説を検証するため、Pcalのflg22と他のPseudomonas属菌のflg22の抵抗性誘導の強度、運動能等の比較を行う。 ASMによる全身獲得抵抗性の誘導速度が、作物種や処理方法によって異なる要因が、アシベンゾラル酸の移行速度と関係性があるのかを調べる。具体的には、ASMを処理した植物を根、茎、葉に分け、経時的にサンプリングを行う。その後、80%メタノールで抽出し、液体クロマトグラフ質量分析計を用いて、アシベンゾラル酸の定量を行う。
|