研究課題/領域番号 |
21J10799
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松木 彩星 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 位相復元 / 結合振動子 / 結合推定 |
研究実績の概要 |
脊髄神経系の結合異常によって同期が乱れるという現象が知られている。脊髄神経系のデータを解析するために、結合結合振動子系のシミュレーションデータからの結合推定を実施したところ、従来手法では同期した振動子間の結合を正しく復元できないという問題が明らかになった。そこで、従来手法の問題点を精査するとともに同期状態によらず結合を正しく復元するための手法を検討した。 結合振動子系を数理的に記述する代表的なモデルの一つは、各振動子の状態を「位相」という1次元の変数で表す位相モデルである。位相モデルは、簡潔で解析しやすいモデルとして知られている。そこで本研究でも位相モデルに基づいて結合を推定する。より具体的には、観測される振動信号から振動子の位相を復元し、位相をもとに振動子間の位相結合を推定するという2段階からなるアプローチをとる。 まず、振動信号から位相を復元するための従来手法であるヒルベルト変換法の復元誤差を詳細に解析した。そして、ヒルベルト変換法はノイズ等の位相変調に対するローパスフィルタ的作用を持つことを明らかにした。さらに、復元誤差を低減した「拡張ヒルベルト変換法」を提案した。 次に、結合振動子のシミュレーションデータからの結合推定を実施し、ヒルベルト変換法を用いるとローパスフィルタ的作用の影響で、同期した振動子間の結合を正しく復元できないという問題があることを明らかにした。そして、拡張ヒルベルト変換法を使うことで、同期状態によらず正しく結合推定できることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、令和3年度には、脊髄神経活動等の振動信号から結合振動子モデルを出力するシステムを開発する予定であった。脊髄神経のデータを解析するためにはまず人工的に生成した性質の良いデータを試験的に解析することで、解析手法の妥当性を詳細に検討すべきである。今年度は、従来の解析手法を用いることの問題点を初めて明らかにした上で改良法を考案した。従来手法の問題点は、同期した振動子間の結合が過小に推定されることである。脊髄神経系を含む結合振動子系では同期が系の機能に深く関係しており、同期状態に依存して推定結果が変わってしまうことは大きな問題である。本研究ではこの問題点を精査し、原因が従来手法による位相復元のシステマティックな誤差にあることを見出した。さらにその誤差を低減する手法を開発し、同期状態によらない正確な結合推定を可能にした。これらの結果は、脊髄神経系などのデータを解析するための前段階として重要であるものの、脊髄神経系の実データへの適用には至っていない。この点で今年度の進捗状況としてはやや遅れていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した手法をさまざまな振動子系に対して適用し、その精度や利点・欠点を詳細に調べる。そして、本手法の実データへの適用可能性を検討する。コペンハーゲン大学の御手洗氏やその他の海外の研究者と交流・議論することで、生物現象のモデリングと解析手法について学ぶ。それを通して、本手法を実データに適用するための方策を検討する。また、これらの結果を学術論文にまとめるとともに、学会で発表する。
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