研究課題/領域番号 |
21J10828
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 基 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | 遺伝子治療 / off-target作用 |
研究実績の概要 |
リンパ管疾患に対する遺伝子治療を開発するにあたり、当初の計画に沿って動物モデルの最適化に取り組んだ。臨床例で最も症例数の多い続発性リンパ浮腫に準じ、外科的に作成する浮腫モデルの改良・最適化を目的とした。B6マウス尾部の皮膚を全周性に切除し、切除部より末梢側にリンパ浮腫を作成するモデルを採用した。パラメータとして、切除組織の幅、皮膚欠損部の被覆方法について各3-5種類の条件を設定し、再現性の高さ、継時的な浮腫の変化、病理組織学的リンパ管形態および周囲組織の変化について定量的に評価した。結果として、マウス尾部のリンパ浮腫モデルを最適化できた。 また、リンパ浮腫の治療法を開発するにあたり、局所に対して強力な作用を及ぼすことができる遺伝子導入法の局在化に取り組んだ。AAVを用いた治療法は強力な作用を持つ反面、遠隔作用(off-target作用)の回避が重要な課題である。そこで局所における感染効率の最大化およびoff-target作用の減弱を目的とした。高粘度の物質を担体とすることによるウイルス粒子放出の抑制効果に着目し、担体を改良することでAAV粒子の放出をコントロールすることが可能となり、局所への感染効率を向上させることができると考えた。この仮説に基づき、デザイン性および安全性に優れたPEG(polyethylene glycol)を改良することで、目的とする局所遺伝子導入法の改良を行うこととした。当大学工学部の協力を得て、特に工学的に応用性の高いTetra-PEGを担体として用いる方法の開発に取り組んだ。結果として、特定のPEGを用いることでナノ粒子の放出は局在化した。さらにマウス皮膚潰瘍モデルを用いたin vivo評価において、AAVによる遺伝子導入評価を行い、目的としていた遺伝子導入部位の局在化に成功し、off-target作用の減弱を認めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
リンパ浮腫モデルの作成に関して、概ね計画通り順調に施行することができた。目的としていたパラメーターの同定および理想的なリンパ浮腫モデルが確立できた。 当初ウイルス被殻の改良を行い、定方向進化によるリンパ管内皮細胞に指向性を持つserotypeを樹立することを計画していたが、リンパ管新生にはリンパ管内皮細胞だけでなく間質部分における細胞への遺伝子導入が重要と考えられたため計画を変更し、既存のserotypeで間質への遺伝子導入効果が高いAAV-DJを用いることとした。 本年は局所遺伝子治療にあたり重要と考えられた、ウイルスベクター感染の局在化、つまり局所に対して強力な作用を及ぼすことができる遺伝子導入法の開発に取り組んだ。アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子治療は、全身疾患への適応が先行したが、局所作用への応用が期待されている。AAVを用いた治療法は強力な作用を持つ反面、遠隔作用(off-target作用)の回避が重要な課題である。そこで局所における感染効率の最大化およびoff-target作用の減弱を目的とした。既存の報告では、レンチウイルスベクターやアデノウイルスベクターなどを用いた遺伝子治療において、フィブリンなどの粘度が高い物質を担体とすることでウイルス粒子の放出を抑制することができる。この点に着目し、担体を改良することでAAV粒子の放出をコントロールすることが可能となり、局所への感染効率を向上させることができると考えた。担体を改良することで目的とした潰瘍面でのin vivo遺伝子導入法の局在化に成功し、概ね順調に進展していると考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
リンパ浮腫に対するin vivo遺伝子治療法において、担体を用いた局在化と薬剤の投与部位による効果の違いを明らかにする。潰瘍モデルで既に開発した、局在化のためのPEG担体を用いた治療法について、その効果をリンパ浮腫モデルを用いたin vivoリンパ管新生実験で検証する。具体的にはリンパ管新生によるリンパ浮腫の改善度に関して、浮腫の程度、病理切片による免疫染色を用いたリンパ管内腔および新生リンパ管の数を評価する。またリンパ管機能の改善度に関して、インドシアニングリーンを用いた蛍光リンパ管造影法による再開通の程度および必要な日数について評価する。 さらにリンパ管新生治療によるリンパ代謝経路の機能的な改善度について検討する。リンパ系は循環系の一翼として、皮下間質における液性循環に重要な役割を果たしている。皮下に投与された薬剤の回収経路としても重要な役割を担っているが、分子量による代謝状態の違いなど明らかにされていないことは多い。治療における薬物動態において、リンパ経路の代謝機能を客観的に評価することは意義深い。先立って行ったリンパ浮腫モデルおよびリンパ管新生モデルを用いることで、正常状態、浮腫状態、リンパ浮腫がリンパ管新生治療により改善した状態のそれぞれにおけるリンパ系代謝機能を評価する。皮下投与された薬剤の代謝経路および浮腫・浮腫治療後におけるその変化、また投与された薬剤の分子量による違いを評価することで、薬物動態に関するリンパ機能の影響を明らかにする。
|