研究実績の概要 |
リンパ管疾患に対する遺伝子治療を開発するにあたり、最適化したマウス尾部のリンパ浮腫モデルに対して遺伝子導入を行ったところ、局所における遺伝子発現は極めて低く、担体を用いた潰瘍部局所の遺伝子発現効率の向上が先立って必要と考えられた。すでに取り組み始めていた局在化の検討を推し進め、アデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子治療が根本的に抱える遠隔作用(off-target作用)の回避についても、高粘性のポリエチレングリコール(PEG)を担体として用いることで減弱できることが確認できた。 またその機序として、熱の影響について細胞培養を用いた追加実験も行った。結果として、AAVは血清の存在下では熱の影響を受けづらい反面、血清の乏しい状況であるPEG内などでは遺伝子導入能が経時的に傷害されることが示唆された。つまり高粘性のPEG担体が潰瘍面における遺伝子導入の局在化を達成した要因として、PEG担体の粘性ゆえに潰瘍表面にAAVが適度に滞留したことが、局所での発現を低下させず、遠隔臓器である肝臓での作用を減弱するという結果につながったと考えられた。 成果をCommunications Biology誌に投稿し、2023年4月19日に掲載が許可された。 また、当大学工学部の協力を得て、体内投与されたPEGがどのような代謝を受けるのかについて、in vivoでの解析を行った。蛍光付与したPEGにより代謝経路ごとの組織沈着量を評価することができ、分子量によって異なる動態であることが確認された。本研究結果は、ACS Macro Letters誌に投稿し、2023年4月3日に掲載された。(Ishikawa S, Kato M, et. al. ACS Macro Lett. 2023 Apr 18;12(4):510-517.)
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