2022年は、Chandra衛星に加えてX線偏光を空間分解可能なIXPE衛星によって最新の観測が行われたため、形態解析を更に深める方向で研究を進めた。IXPE衛星の結果から、カニ星雲のX線トーラスの南西領域が低偏光度であることが示された。この結果は、同領域が複雑に形態変化するという我々の結果と整合する。南西領域には親星由来のフィラメントが存在しており、X線トーラスを形成する電磁流体の流れが周辺環境の影響を受けて乱雑化した可能性を示唆している。また、最新のChandra衛星観測によって、ジェットの屈曲位置が10年以上大きく変化しなかったことも明らかになった。この屈曲も周辺環境から影響を受けている可能性があり、2023年3月に公開されたこの最新データを解析結果に含めて、投稿論文をまとめている。 また、分光解析に向けて、Chandra衛星搭載のX線CCDであるACISのX線応答を再現するシミュレータの構築を進めた。2023年打ち上げのXRISM衛星搭載のX線CCDにも応用されている手法を用いて、光電吸収からACISの応答模擬を試みた。先行研究と比較可能な点源観測を模擬した結果、スペクトルのハードニングとフラックスの減少といった高フラックス天体に対する応答を定量的に再現することに成功した。一方、現状では、X線イベントの電荷分布やエネルギーといった複数の観測量を必ずしも同時に再現できないことが分かった。CCDの電場構造の簡略化が原因の一つであり、詳細な検出器ジオメトリの導入による空乏層の電場構造の精緻化が今後の課題である。 CCDシミュレータの構築と並行して、XRISM衛星に搭載するX線CCDの開発研究も進めた。このCCDは、2023年の打ち上げに向けて既に衛星搭載が完了している。実際に宇宙に打ち上げる4つのCCD素子の較正など、機器開発フェーズへの貢献が認められ、表彰を受けた。
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